研究
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環境調和型高性能熱電変換ナノ材料の開発
教授 中村 芳明(基礎工学研究科 システム創成専攻 電子光科学領域)
研究の概要
エネルギー消費量のうち60%は廃熱として捨てられており、この莫大な廃熱をターゲットとした熱電変換が新たなクリーンエネルギーとして注目されています。従来の熱電材料は、高性能化のために高価・有毒な重元素が主に用いられるのが課題でした。
我々は、原子レベルで制御した独自のナノ結晶構造形成技術を駆使して、高熱電性能化のための至上命題であった電気と熱の独立制御を達成し、IV族元素を中心とする軽元素のみで構成した環境調和型高性能薄膜熱電材料を開発しました。本研究は、ナノ構造物理に基づいた電気・熱の輸送学理を新規構築するとともに、IoTセンサ電源等といった社会応用も可能にする学術面・社会面の両面に貢献するものと言えます。

研究の背景と結果
新たなクリーンエネルギーの創出が切望される中、廃熱をターゲットとした熱電変換は新エネルギー源の一つとして注目されています。従来の熱電材料は高価・有毒な重元素が主に用いられてきましたが、安価・無毒な軽元素の場合、その低い熱電性能が課題でした。我々は、原子レベルで制御した独自のナノ結晶構造(ナノドット・ナノワイヤ)形成技術を駆使して、高熱電性能化の至上命題であった電気と熱の独立制御を達成し、軽元素で構成した環境調和型高性能薄膜熱電材料を開発しました。特に電子デバイスに使用されるSiに注目して、独自のSiナノドット連結構造を開発したところ、世界最小熱伝導率を達成し、Si系IoTセンサ電源材料としての可能性を示しました。この極小熱伝導率の機構解明に取り組んだところ、フォノンが極限的に閉じ込められているという事実が分かりました。詳細な調査の結果、これはフォノンの波動的性質が発現した結果であるという学術的に興味深い結果を得ました。これらの知見から最近では、窓ガラス廃熱利用に向けた透明熱電材料開発を目指してナノワイヤを導入した電気と熱の制御にも成功しています。
ナノ結晶構造では、熱伝導率が低減されるという上記の発見を用いて、材料中にナノ結晶を導入し、温度差のある材料中の温度分布を制御することを考えました。この概念に基づいて、最近では、宇宙船で実際に応用されているSiGe材料中にAuを少量導入することで熱電性能向上に成功しました。Au周辺には熱伝導率の低いGe-richナノ結晶が形成されます。Auは熱伝導率が高く、Geナノ結晶及びSiGeは熱伝導率が低いことで、材料内の温度分布が制御され、ゼーベック係数が高いナノ結晶やSiGeに優先的に温度差が印加されます。この温度分布制御に加えて、特異的な電子状態を意図的に形成することで、身近にある低温廃熱の温度領域で、約2倍の熱電出力因子増大に成功しました。これは熱電性能向上の新たな方法論の構築に成功したと言えます。

研究の意義と将来展望
本研究は、ナノ構造形成技術を駆使して熱と電気の独立制御を可能にする学術的意義の高いものです。これは、環境調和型の軽元素材料を熱電材料の主役に引き上げる産業・社会的意義の高い研究でもあります。現在、COVID-19や高齢化社会により遠隔通信をベースとした新たな生活様式に移行しつつあります。こうした社会の流れに対して、我々はナノ構造を用いた高性能薄膜熱電電源をセンサに組み込むことで、新たな生活様式を支えるための遠隔通信サービスを可能にします。これにより、医療・農業を含む幅広い社会分野を支えることを目指します。

担当研究者
教授 中村 芳明(基礎工学研究科 システム創成専攻 電子光科学領域)
キーワード
熱電材料/ナノ結晶/ユビキタス元素/結晶方位/環境調和型材料
応用分野
ナノテクノロジー/材料/エネルギー
参考URL
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20141210/
http://www.adv.ee.es.osaka-u.ac.jp/
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2014/20141210_1
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2018/20181031_2 https://engineer.fabcross.jp/archeive/181101_nanowire.html
http://www.optronics-media.com/news/20181031/53791/
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210129_1