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阪大はZEB化する 身近な省エネの徹底で「脱炭素(カーボンニュートラル)」へ

  • インタビュー

 地球温暖化を防ごうと世界の120以上の国と地域が、2050年までに温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ全体としてゼロとするカーボンニュートラルの実現を目指している。

 日本でも脱炭素社会の実現に向け様々な省エネルギー策が講じられている。注目を集めているのがZEB(ゼブ)だ。ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディングの略称で、建物で消費する年間のエネルギー収支をゼロにすることを目指した建築物のことを指す。

 脱炭素化を進める大阪大学は電気バスの導入や省エネ施策、既存建物の改修にも積極的で、国内の大学でもいち早くZEB化を推進。先進的な取り組みとして注目を集める。ZEB化のキーマンは、サステイナブルキャンパスオフィスの鈴木智博准教授だ。空調機器大手・ダイキン工業から出向し手腕を振るう第一人者に話を聞いた。

ZEBとは

 そもそもZEBとは、快適な室内環境を維持しながらも、建物で使うエネルギーを削減すること(省エネ)に加えて再生可能エネルギーの導入などでエネルギーを生み出し(創エネ)、従来の建物で必要だったエネルギー換算での収支をゼロ以下にする考え方だ。収支をゼロにするのは、容易に達成できる目標ではないため、環境省では「建築物の環境性能基準」として4段階(表1)の評価方法を設けている。

空調、換気、照明、そして制御がカギ

 ZEB化は特別なことと捉える方が多いかもしれない。しかし身近な省エネの徹底で達成できる。決して特別ではない。

 鈴木准教授はダイキン時代の2018年、自社の築20年の事務所ビルを対象に汎用的な設備機器の更新によりZEB Readyを達成し「省エネ大賞」を受賞。温度と湿度を別々に管理する高効率エアコン、空調・換気、照明を一元管理できる集中管理システム、既設空調機の運転データを活用した最適容量選定手法を組み合わせ、建屋全体のエネルギー消費量を67%削減、ZEB Readyの達成に成功した。「省エネ大賞」では、既存建物のZEB化がほとんど進んでいない中で、汎用的な設備更新のみで既存建物のZEB化ができる点が特に評価された。その後、培った知見を活かし、築30年以上が経つ穴吹興産のテナントビルの改修でもZEB Readyを達成

 ZEB化のポイントに挙げるのは「空調と換気、照明、そしてエネルギー制御」だ。鈴木准教授は「エネルギー消費の大半を占める空調と照明の各設備を省エネ性能の高い機種に更新し、窓の断熱性能を高め、適切にマネジメントすれば大きな効果が得られます。設備更新中心なので、改築と比べればコストも抑えられます」と話す。ハードルが高く見えるZEB化の普及だが、新築以外に、既存建物でも十分に進めることができる。

※ 築30年以上のテナントビルのZEB Readyは日本初。2020年の省エネ大賞も受賞。

阪大はZEB化する

 大阪大学では、主要3キャンパスのエネルギー消費量を2010~19年度で31%削減するなど、以前から積極的に省エネを進めてきた。省エネ改修費を改修後の光熱水費削減でまかなうESCO事業を医学部附属病院などの大規模施設で実施するといった取組や成果が評価され、2016年に省エネ大賞を受賞している。

 2020年4月に着任した鈴木准教授には、更なる省エネ推進が課せられた。まず学内の空調・換気、照明設備を調査し、その改修効果を試算。キャンパス内の全441棟のうち(500㎡以上の建物254棟)、省エネ政策上効果が大きいとされる建物は177棟と判断。その半数の建物を対象に、省エネ効果の高い空調やLEDに交換した場合の効果を算出したところ、消費エネルギー削減量は空調で20%、照明で50%、遠隔操作機器の導入で更に18%の削減が見込めた。

 具体的な数字の提示と働きかけで、学内でのZEBに対する理解が深まり、2021年2月制定の「大阪大学エネルギーマネジメント中期目標・基本方針」に今後新築する建物は全てZEB Readyとする条項が追加された。国内の大学に先駆けた取り組みだ。

国立大学初の新築「ZEB Ready」研究棟、「ZEB Oriented」棟

 すでに「ZEB」の基準を満たした建物も完成している。

 2022年2月完成予定の薬学4号館は、省エネ効率の高い機器に変更するだけでZEB Readyが達成可能だったため、関係者に働きかけ実行。国立大学初のZEB Ready新築研究棟となった。

 また、2021年4月に開学した箕面キャンパスは、環境性能を評価する世界的な認証制度LEED-NDのゴールド認証を大学キャンパスとして日本初、外国学研究講義棟も新築建物を対象としたLEED-NCでゴールド認証を取得。改めてZEBの基準を達成しているか検証すると、外国学研究講義棟(約25,000㎡)で、54.4%エネルギー消費量を削減し、ZEB Oriented基準を国立の大学で初めてクリアできていることを示した。この基準は、従来ZEB化が困難とされた延べ床面積10,000㎡以上の建物を対象とするもの。今後も、2022年完成予定の工学U6棟、その後も微研感染症共同研究棟、共創環境形成拠点施設なども監修し、更なるZEB化を進めていく。

2024年4月よりMA-T共創センター(杏の杜)に名称変更

一人一人が省エネを意識し、目標達成へ協力を

 一般にオフィスビルのエネルギー消費比率は空調50%、照明25%、パソコンや印刷機などのコンセント利用25%とされる。対して大阪大学は、特に研究施設が多いため実験機器などが中心のコンセント利用のエネルギー比率が50%を占める。実験施設のエネルギー消費を抑える施策は今後取り組むべき大きな課題だ。太陽光発電など創エネ設備の更なる積極的な導入も必要になる。やるべきことは多く見えるが、鈴木准教授は「業務用の空調・換気などの省エネ性能の低い機器の更新、全蛍光灯のLED化、適切なエネルギーマネジメントなどで、2030年までにCO2排出量は51%削減できる可能性がある」と具体的なビジョンを示す(現時点の本学目標値は40%減。今後、国の削減目標値変更に伴い見直す予定)。

 最も重要なのは、大学で過ごすひとりひとりの日々の習慣と意識だという。「サーバー機器など常時稼働が必要な機器の集約や、ドラフトチャンバー稼働時の空調の適切な利用、日ごろの整理整頓、ムダな電気は小まめにオフにするなど、できることは沢山あります。省エネ意識を高めて、身近な取り組みを徹底すればZEB化につながるし、その先のカーボンニュートラルも達成できます」

 千里の道も一歩から。数字だけで見れば難しそうな削減目標も、積み重ねることで達成が見えてくる。大阪大学の挑戦は続く。

サステイナブルキャンパスオフィス 准教授 鈴木智博

(2021年12月取材)

表1

ZEBゼブ=50%以上の省エネと創エネを組み合わせ、従来の建物で必要なエネルギーの100%以上の消費量削減を実現した建物

Nearly ZEBニアリー・ゼブ(ZEBに限りなく近い建築物)=50%以上の省エネと創エネを組み合わせ、従来の建物で必要なエネルギーの75%以上の消費量削減を実現した建物

ZEB Readyゼブ・レディ(ZEBを見据えた先進建築物)=省エネで、従来の建物で必要なエネルギーの50%以上の消費量の削減を実現している建物

ZEB Orientedゼブ・オリエンテッド(ZEB Readyを見据えた建築物)=延べ面積10000平方㍍以上で用途ごとに規定したエネルギー消費量削減(従来の建物で必要なエネルギーの30%以上や40%以上)を実現し、さらなる省エネに向け効果が高いと見込まれる未評価技術を導入した建物

サステイナブルキャンパスオフィス