研究

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新型コロナウイルスワクチン開発につながる感染増強抗体を発見

荒瀬 尚(免疫学フロンティア研究センター)

  • 全学・学際など
  • 免疫学フロンティア研究センター

取組要旨

前年から引き続き世界中に蔓延する新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) は人類の健康・福祉を脅かす大問題になっている。この災厄を切り抜けるのに重要なのがワクチンによる予防接種であり、各国がその開発に向けてしのぎを削ってきた。大阪大学の荒瀬尚教授を中心とした免疫学フロンティア研究センター・微生物病研究所・蛋白質研究所・感染症総合教育研究拠点・医学系研究科等から成る研究グループは、COVID-19患者由来の抗体を解析することにより、新型コロナウイルスに感染すると感染を防御する中和抗体だけでなく、感染性を高める感染増強抗体が産生されていることを初めて発見した (Liu et al., Cell 2021)。さらに、感染増強抗体が産生されると、中和抗体の作用が減弱することが判明した。中和抗体は新型コロナウイルスの受容体結合領域 (RBD) を認識するのに対して、感染増強抗体は別の部位 (NTD) に結合しスパイクタンパク質の構造を変えることで、ウイルスが細胞に感染しやすくなることが明らかになった(図)。

研究成果・インパクト

本研究では、COVID-19重症患者で感染増強抗体の高い産生が認められただけでなく、非感染者でも感染増強抗体を少量持ちワクチンの効果を弱めている可能性が示唆された。今後のワクチン戦略では、いかにして感染増強抗体ができにくいワクチンを開発していくことが課題の一つとなるだろう。ウイルスは常に遺伝子変異を伴うため、本研究を基礎にして、どれほどのウイルス変異が現行ワクチンの効果を弱め、感染増強抗体の産生を促すかという研究が続いており「すべての人々の健康的な生活を確保する」というSDGsの目標にも合致する。

担当研究者

荒瀬 尚

備考

キーワード

新型コロナウイルス、COVID-19、重症化因子、抗体依存性感染増強

応用分野

COVID-19 ワクチン戦略