研究

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電位センサー分子を基軸とする医学研究

助教 河合 喬文、教授 岡村 康司(医学系研究科 統合生理学)

  • 医歯薬生命系
  • 医学系研究科・医学部(医学専攻)

特徴・独自性

電位依存性チャネルは、高血圧治療薬、不整脈治療薬、てんかん治療薬、鎮痛薬など創薬の重要なターゲットである。電位センサードメインの直下に細胞質領域をもつVoltage sensing phosphatase(VSP)はがん抑制遺伝子の酵素であるPTENと類似する酵素を有し膜電位の脱分極によりホスホイノシチドの脱リン酸化活性が変化する。その動作原理は国内外で研究されてきたが、生理的役割は不明であった。最近我々は
VSPをノックアウトした精子は、同じ場所を旋回して前進しにくく受精能が低下し、VSPが膜電位シグナルが精子の運動を調節する仕組みの要であることを明らか
にした(文献1、図1)。電位依存性プロトンチャネルVSOP/Hv1は電位センサードメインが膜電位感知とプロトン選択的透過の両方を担うユニークな性質をもち、哺乳類ゲノム中でコードされる最小のカチオンチャネルである。VSOP/Hv1は免疫系細胞に幅広く発現し、最近ノックアウトマウスで糖新生が亢進しており、肝臓でのKupffer細胞のVSOP/Hv1がROS産生の調節を介して糖新生を調節することを明らかにした(文献2)。

図1

研究の先に見据えるビジョン

VSPは酵素をもつ唯一の電位感受性たんぱく質であり、VSPの電位センサードメインはポータビリティーが高く、他の酵素とのキメラを創製することで新規のシグナル伝達を操作できる可能性がある。蛍光分子との融合により有効な膜電位レポーターが開発され神経ネットワークの解析などに使われてきたが更に戦略的に分子動作原理の知見を反映させることで、細胞内膜など従来は「見えなかった」膜電位シグナルの可視化、更には創薬スクリーニング系のための可視化技術に繋がる。また精子や免疫系細胞での役割を切り口に、生殖や代謝に関連した創薬研究が期待される。

図2

担当研究者

助教 河合 喬文、教授 岡村 康司(医学系研究科 統合生理学)

キーワード

膜電位/イオンチャネル/受精/糖代謝

応用分野

膜タンパク質分子に基づく創薬

備考

http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/phys2/okamura/research.html

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2021(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。