研究

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熱・電子相関による原子移動:断熱近似を超えたところで

特任教授 竹田 精治(エマージングサイエンスデザインR³センター)

  • 全学・学際など
  • エマージングサイエンスデザインR³センター

特徴・独自性

身の回りの物質の中には膨大な数の原子が含まれる。電子の数はさらに膨大である。科学技術の進歩で原子や電子の振る舞いをすべて理解したと思いがちだが、実は基本的なことが予測どころか再現すらできない。その一つが熱・電子相関である。熱の実態は物質の中での原子の振動である。一方で、物質・デバイスが役立つ裏側では電子が原子間を極めて高速に渡り歩く。このとき熱の実態である原子の振動と電子の移動は相互に関係する。これを熱・電子相関という。この相関の結果、物質中の原子の配列が乱されて修復できないことが起こりうる。この相関による原子配列の非可逆的な変化を最近、原子スケールで可視化した。

図1 化学反応環境下での原子移動:触媒の劣化フロセス(a)反応環境下。黒丸はそれぞれ固体触媒表面の原子コラム一つに対応。次第に原子コラムの配列は変化する。
(b)参照環境下。配列の変化はほぼない。論文(1)より。

研究の先に見据えるビジョン

触媒の劣化(被毒)を防げない。熱電材料開発の理論的な指針が得られない。このような課題が未解決である大きな理由は熱・電子相関を解明できないことにある。空間的には原子サイズであり、時間的には高速(10as(アト秒)のオーダー)の素過程の蓄積によってmsオーダまで引き続く現象である。計算機シミュレーションが勃興したが電子論といっても断熱近似ー高速の電子が渡り歩く間は常に原子は静止しているーの範囲に現状ではとどまる。熱・電子相関の直接探索は始まったばかりである。至難であり、また、その結果については予断を許さない。しかし基礎研究として必ず手がけておく必要がある。

図2 電子トンネリンクによる固体表面での原子移動(a)金属表面へのトンネル電子の注入方法。(b)上側の表面がトンネル電子の注入面。原子配列は変化していく。(c)上側の表面がトンネル電子の出射面。原子配列は安定している。希薄な酸素雰囲気中。論文(2)より。

担当研究者

特任教授 竹田 精治(エマージングサイエンスデザインR³センター)

キーワード

電子励起/原子的構造/断熱近似/電子トンネリング

応用分野

触媒/熱電素子

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2021(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。