研究

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アモルファス固体の物理から深層学習のメカニズムまで-ランダム系の統計力学

准教授 吉野 元(サイバーメディアセンター)

  • 理工情報系
  • サイバーメディアセンター

特徴・独自性

理論物理学の手法の一つである統計力学を用いると、異分野の問題にまたがる共通の数理構造が見つかることがあります。最近我々は、最もシンプルなアモルファス固体であるコロイドガラスを高密度に圧縮し、そこで初めて発現するマージナル安定な状態における力学的な性質(図1)を、統計力学による理論解析で予言し、阪大サイバーメディアセンターのスーパーコンピュータを用いた大規模分子動力学シミュレーションで実証することに成功しました。その一方、深層ニューラルネットワークによる機械学習において、デザイン空間にクラスター形成(ガラス転移に相当)が起こること、これが階層的な構造(図2)を持つことを理論的に発見し、その証拠を大規模シミュレーションによって捉えることに成功しました。これにはガラスの統計力学的研究の手法、概念が決定的な役割を果たしています。

図1 高密度コロイドガラスにおける安定性マップ: ジャミング近傍の高密度領域に力学的にマージナル安定な領域を発見。
図2 深層ニューラルネットワーク内部におけるデザイン空間の模式図: 訓練データ数Mの増大とともに入出力層付近で階層的な解空間の分裂(ガラス転移に相当)が起こる。ネットワークが十分深ければ、中央部に分裂していない領域(液体相)が残る。

研究の先に見据えるビジョン

我々が開拓を進めている「ランダム系の統計力学」を用いて、アモルファス物質の第一原理的なマテリアルデザインと、深層ニューラルネットワークなど情報科学の課題が共通の基盤で研究できるようになってきました。実用上大きな成功を収めつつも理論的理解が遅れ、ブラックボックスになっている深層ニューラルネットワークのメカニズムを解明し、さらに発展させる道が開かれつつあると考えています。

担当研究者

准教授 吉野 元(サイバーメディアセンター)

キーワード

統計力学/ガラス転移/情報統計力学/深層学習

応用分野

レオロジー/アモルファス物質開発/AI

参考URL

http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~yoshino/

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2021(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。