研究

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機能統合戦略に基づく小分子変換触媒システムの創出

准教授 近藤 美欧(工学研究科 応用化学専攻)

  • 理工情報系
  • 工学研究科・工学部

研究の概要

水の4電子酸化による酸素発生反応(2H2O → O2 + 4H+ + 4e−)は、人工光合成を達成する上で不可欠な反応である。本研究では、天然の光合成系において酸素発生を触媒する酵素の構造に学ぶことで、2つ以上の機能性部位を1つの材料中に融合した「機能統合型」材料の開発を行った。より具体的には、金属錯体触媒を電気化学的に重合することで、触媒活性中心の近傍に電荷移動サイトを導入したポリマー型酸素発生触媒(Poly-1)を構築した。Poly-1は、電荷伝達サイトに由来した高い電荷輸送能を示し、その酸素発生反応に対する触媒能が、電荷伝達サイトを持たない錯体と比較して飛躍的に向上することが示された。更に、Poly-1の触媒活性を既存の分子性触媒と比較すると、より低い酸素発生過電圧ならびに高いファラデー効率を示し、その活性が良好であることが明らかになった。

研究の背景と結果

(PhCOOH = benzoic acid))と比較して小さな電荷移動抵抗値が得られ、Poly-1が高い電荷輸送能を持つことが判明した。引き続いて、水の酸化反応に対する触媒能を調査するために定電位電解を実施した。1時間の定電位電解において、1.55 Cの電荷が流れ、反応終了後に気相をガスクロマトグラフィーで分析したところ、90%を超えるファラデー効率で酸素の発生が確認された。同様の定電位電解実験をCo4O4(PhCOO)4(py)4を用いて行ったところ、酸素発生反応がほとんど進行しなかったことから、ビスカルバゾール部位の存在が触媒反応に不可欠であることが判明した。更に、Poly-1の触媒活性を他のコバルト含有型分子性触媒と比較すると、その活性が良好であることが明らかになった。以上の結果より、物質変換能と電子/ホール輸送能との機能統合を行うことが良好な酸素発生触媒材料の創出にあたって新たな戦略となることが示された。

研究の意義と将来展望

天然の光合成反応においては、触媒活性中心の構造のみならず、その周りの環境(反応場)がその良好な活性の発現に重要な役割を果たすことが知られている。しかしながら、既存の人工的な酸素発生触媒の開発においては、触媒活性中心の構築に主眼が置かれてきた。本研究で得られた成果は、人工的な触媒系の構築にあたっても、反応場の制御が重要であることを明示しており、今後の人工光合成触媒システムの開発に新たな戦略を提供するものである。

担当研究者

准教授 近藤 美欧(工学研究科 応用化学専攻)

キーワード

人工光合成/金属錯体/小分子変換反応

応用分野

エネルギー分野/環境材料

参考URL

https://www.chemistryviews.org/details/ezine/11284936/Artificial_Water_Oxidation_System.html

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。