研究

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木材由来のナノ繊維による濡れても割れても機能する回路保護膜

助教 春日 貴章、教授 能木 雅也 (産業科学研究所 自然材料機能化研究分野)

  • 理工情報系
  • 産業科学研究所

研究の概要

電子デバイスにとって水が天敵であることはよく知られており、これまで防水コーティングやパッキングなど様々な封止技術が開発されてきました。しかし、どんな封止も一度損傷してしまえば水の侵入を防ぐことはできず、故障は免れません。我々は、電子回路上に木材由来のナノ繊維をコーティングすることで、回路の短絡及び発熱・発火といった事故を防止できることを発見しました。さらにその短絡抑制効果はコーティングが損傷した状態からでも発揮され、24時間以上継続します。本成果は、吸水によるナノ繊維の再分散、電気泳動、ゲル化という3ステップを上手く組み合わせることで実現しています。本成果により水濡れによる発熱・発火といった故障を抑制でき、近年開発・普及が進んでいるウェアラブル・ヘルスケアデバイスや、環境調和型センサデバイスのさらなる安全性向上が期待できます。

研究の背景と結果

電子デバイスにとって水が天敵であるというイメージは深く浸透しています。ただし、水濡れ故障は必ずしも水が付着した瞬間に発生するわけではありません。電子回路の金属部分に水が付着すると、陽極(+) 金属は金属イオンとして溶け出し、負極 ( − ) で金属銅として樹状に析出します。イオンマイグレーションと呼ばれるこの現象が進行すると、回路は樹状析出により短絡し、故障や発熱・発火といった事故が発生します。つまり水濡れ故障を防ぐためには、回路に水を触れさせないことと同様に、樹状析出を成長させないことが重要になります。今回、我々は木材由来のナノ繊維 ( セルロースナノファイバー) を電子回路上にコーティングし、イオンマイグレーションの発生過程を評価しました。その結果、コーティングをしなかった回路は水没後 数分で短絡してしまう一方で、ナノ繊維をコーティングした回路は水没後24時間経っても短絡しないことを発見しました。詳しくメカニズムを見ていくと、乾燥状態で積層していたナノ繊維が吸水・再分散し、陽極 (+) の周囲に電気泳動することで「集まり」、陽極から溶け出した金属イオンを吸着して「固まる ( ゲル化する )」ことが判明しました。陽極周囲に構築されたナノ繊維のゲルが樹状析出の成長を阻害するため、長時間経過しても短絡しません。たとえコーティングが損傷していたとしても、ナノ繊維が損傷部を修復するように電気泳動して集まるため、コーティングが破損するような過酷な状況でも水濡れ故障を抑制することが可能です。

研究の意義と将来展望

本成果のポイントは、電子回路上にナノ繊維が含まれたコーティング液を塗って乾かすという簡便な手順で、コーティングが損傷した状態でも機能する回路保護膜が実現できる点です。既存技術との組み合わせも容易であり、防水コーティングとナノ繊維コーティングの積層により、さらなる安全性の向上が期待できます。電子デバイスの安全性と寿命性を高める、新たな「最後の砦」として機能することが期待できます。

担当研究者

助教 春日 貴章、教授 能木 雅也 (産業科学研究所 自然材料機能化研究分野)

キーワード

セルロースナノファイバー/回路保護膜/ウェアラブルデバイス/SDGs

応用分野

医療・ヘルスケア/スマートデバイス

参考URL

https://www.youtube.com/watch? v=6ENGdrD2vWM&t=105s

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。