研究

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光の力で原子スケールの構造を可視化

教授 菅原 康弘(工学研究科 物理学系専攻 応用物理学講座)、教授 石原 一(基礎工学研究科 物質創成専攻)

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研究の概要

半導体や金属のナノ粒子は、光触媒、太陽電池などに用いる光機能材料として注目されている。光を用いる走査型顕微鏡(走査型近接場光学顕微鏡)を用いれば、このような試料の光学特性を反映した画像を取得できるが、これまで原子スケールの分解能での観察は実現されていなかった。研究チームは、光照射により発生する力(光圧)を計る顕微鏡(光誘起力顕微鏡)を用いて、高性能な光触媒材料として設計された複合ナノ粒子の近接場光を1ナノメートル以下の分解能で画像化することに世界で初めて成功した(図1〜2)。超高真空中での観測を実現し、かつ光照射による熱の影響を除去する独自の工夫を加えたことが高分解能観察の鍵となっている。複合ナノ粒子を複数の波長の光を用いて観測し、複合ナノ粒子が設計通りの化学的性質を持つことを原子分解能に迫る光圧画像で確認し、光圧の3次元ベクトル像を取得することにも成功した(図3)。機能性ナノ材料の設計・評価のための新しい基盤技術として期待される成果である。

図1 (a) 光照射された走査型顕微鏡のプローブ先端と試料の間に働く力(光圧)を読み取る光誘起力顕微鏡の模式図。(b)(c) 二種の光波長(600nm,520nm) で得られた光誘起力顕微鏡像。(d) 光誘起力像の断面図。光触媒として設計された電子エネルギー構造が反映されている。
図2 (a) 試料の原子間力顕微(拡大図)。(b)試料の光誘起力顕微鏡像(拡大図)。(c)光誘起力顕微鏡像の断面図。1nm を切る分解能が得られていることが分かる。
図3 (a) 光圧の3次元ベクトル計測の模式図。(b)計測による光圧の3次元ベクトル。カラーの矢印で面内の力の大きさと方向を表す。白黒の濃淡は高さ方向の力の大きさを表す。(c) 光圧の3次元ベクトル理論計算図。実験で得られた画像の傾向がよく説明できている。

研究の背景と結果

近年、電子を閉じ込めた半導体や金属のナノ粒子が様々に合成され、光触媒、太陽電池などに用いる新しい光機能材料として注目されている。個々のナノ材料の光機能をミクロな成り立ちから評価するためには試料を光励起し、原子スケールで試料近傍の近接場光を観測する必要がある。これまで近接場光を観測する顕微鏡としては走査型近接場顕微鏡があるが、原子スケールの分解能を得ることは不可能であった。近年、原子間力顕微鏡技術に基づき、試料表面の光学的性質を高い空間分解能で画像化する新たな顕微鏡(光誘起力顕微鏡)が開発されている。この顕微鏡では、原子間力顕微鏡の金属探針と試料表面に光を照射し、金属探針に誘起される双極子と試料表面に誘起される双極子との間の双極子・双極子相互作用を力として検出する。今回、研究チームは、光誘起力顕微鏡を超高真空中で作動させることにより力の検出感度を飛躍的に高めることと、光照射を繰り返すタイミングに独自の工夫を凝らして発熱の影響を極限まで低減させることにより、桁違いの高分解能を実現することに成功した。この高性能な光誘起力顕微鏡で高性能光触媒材料として合成されたダンベル型の半導体量子ドットを波長の光を用いて観測し、そのデータを理論解析した。その結果、光触媒機能を高めるために工夫された化学的性質を反映した1nm以下の空間分解能で近接場光像が得られていることが分かった。また、プローブ先端のミクロな突起が今回の原子スケールの分解能に寄与していることが解析により明らかとなった。さらに、半導体量子ドットに作用する光圧の3次元ベクトル像を取得することにも成功しました。これらは、機能性ナノ材料の設計・評価のための新しい基盤技術として期待される成果である。今後、さらに、低温環境を利用することにより、超高感度な力検出が実現され、これまで誰も成しえなかった単一分子内部の光学応答の可視化も可能になると期待される。

研究の意義と将来展望

本技術を用いれば、ナノ構造の近接場光を原子分解能で観測することができるため、新しいナノ材料合成のための設計・評価が格段に高度化する。このため本技術は今後、画期的な光触媒材料や太陽電池材料を実現するための新しい基盤技術になると期待される。

担当研究者

教授 菅原 康弘(工学研究科 物理学系専攻 応用物理学講座)、教授 石原 一(基礎工学研究科 物質創成専攻)

キーワード

光誘起力顕微鏡/光圧/近接場光学/ナノ粒子

応用分野

光触媒材料/太陽電池

参考URL

https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210623_2

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。