研究

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シリコンナノ共振器による巨大非線形光散乱

教授 髙原 淳一(工学研究科 物理学系専攻)

  • 理工情報系
  • 工学研究科・工学部

研究の概要

単結晶シリコン(Si)のナノ光共振器において自然のバルク値と比べて10万倍(5桁)もの極めて大きな非線形光学散乱がおきることを見出し、本効果がミー共振による熱光学効果によっておきることを明らかにした。これにより超短パルス光を用いることなく連続光でシリコンの非線形性を利用することが可能となる。本成果はシリコンフォトニクス素子における全光スイッチ素子や超解像イメージング等への応用が期待される。

研究の背景と結果

光が物体に入射するとき、入射光の強度と物体からの散乱光の強度は通常では比例関係にあるが、光強度が大きくなり1010W/cm2になると直線からずれる。これを非線形性とよぶ。光で光を制御するためには、非線形性を大きくする必要がある。しかし、バルクのSi の持つ自然の非線形性は極めて小さく、非線形性を出すためには超短パルスレーザーを用いてピーク強度を上げる必要があった。また、Si の非線形性を人工的に大きくするためにマイクロリング共振器やフォトニック結晶の構造に光を強く閉じ込めて非線形性を増大させる研究が行われてきた。しかし、このような構造は作製や動作が複雑であり、シンプルな方法が求められていた。我々は連続レーザー光を立方体型のSi ナノ共振器(図1a)に照射して、その散乱光スペクトルを実験的に調べた。そこでパワーが105W/cm2の光ビームをあてると散乱光強度が飽和する非線形光学散乱がおきることを発見した(図1b)。これはバルクSi の10万分の1という極めて低いパワーである。また、この飽和現象は比例直線から正にずれる場合と負にずれる場合の2タイプがあり、共振器のサイズにより変化することもわかった(図1c,d,e)。光の波長と同程度のサイズのナノ構造体に光を当てると、ミー共振がおこり特定波長の光が共鳴的に散乱される。このとき光の一部は共振器内に強く閉じ込められて、数百℃におよぶ急激な温度上昇が起こる。その結果、熱光学効果によって屈折率が変化し、散乱強度が直線から大きくずれることにより非線形性が増強されていることが明らかになった。一方で、光共振器の体積が0.001μm3と小さいために蓄えられる熱量は少なく、レーザーがOFF になると即座に基板へ放熱されるので、ナノ(10-9)秒オーダーの高速の応答がおきる。これにより波長592nm の光を制御光としてON/OFF することで、543nm の信号光の散乱強度が変調される光・光スイッチングを実現した(図2)。

図1
図2

研究の意義と将来展望

Si は産業のコメともよばれエレクトロニクスの中心材料であるが、近年ではフォトニクスにおいてもその重要性が増しており、シリコンフォトニクスとよばれている。本研究は熱によりSi が本来もつ自然な非線形光学定数を桁違いに増幅するものである。これまでも超短パルス光をマイクロメートルサイズのマイクロ共振器やフォトニック結晶に入射することにより非線形性を増大できることが実証されてきたが、本成果の値は単純な箱型構造でありながら、それを大きく超えるものである。従来、熱光学効果は応答速度が遅いと考えられてきたが、本効果の緩和時間はナノ(10-9)秒オーダーであることが確認されたことから、将来は10GHz で高速動作させることができる。本成果はシリコンフォトニクスにおける光・光スイッチをはじめとする光制御デバイスや超解像イメージング(図3)などへの応用が期待される。

図3

担当研究者

教授 髙原 淳一(工学研究科 物理学系専攻)

キーワード

ミー共振器/カー効果/シリコンフォトニクス/全光スイッチ

応用分野

光エレクトロニクス/全光スイッチ/超解像イメージング

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。