研究

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高性能パワーレーザーと高エネルギー密度物質

准教授 尾崎 典雅(工学研究科 電気電子情報工学専攻)

  • 理工情報系
  • 工学研究科・工学部

研究の概要

ハイパワーレーザー用いて実現されるダイナミックな超高圧など、極限環境で現れる物質の未知の姿や振る舞いを明らかにする研究を行っています。物質の構造や状態の変化と、それに伴って変化する物性や反応を理解することで、新しい物質や材料の設計および合成に活かすことができます。貴重なリアルタイム観察データとインフォマティクス技術を組み合わせ、先進的なレーザー加工・プロセス開発にも貢献できると考えています。大型レーザーだけでなく、X線自由電子レーザーやスーパーコンピュータなど最先端施設・装置を利用した共同研究を通じて新たな知を生産します。

研究の背景と結果

ハイパワーレーザーによる動的圧縮法によれば、他の方法では実現不可能な1千万気圧(地球のコアの3倍)超の極超高圧極限物質状態を生成できます。すなわちレーザー高圧力の方法は物質の隠された姿や振る舞いを見出すための優れたアプローチと言えます。炭素は様々な多形を有する最も重要な物質のひとつであり、超高圧超高温の環境でも強固な固体(ダイヤモンド)として存在しうるユニークな系です。そして、ナノサイズのダイヤモンド結晶粒を隙間なく固めた“ナノ多結晶ダイヤモンド”は、いわゆる単結晶のダイヤモンドよりも高い強度を有しているとされていました。本研究プロジェクトでは、大阪大学のレーザー超高圧の手法を用いてその強度を世界で初めて定量的に決定し、単結晶ダイヤモンドの3倍程度もの高い弾性強度が実証しました。また、このような極限的な圧力や温度下での物質の変形や状態変化が、X線自由電子レーザーと呼ばれる極短パルス超高輝度の最先端光源を用いて直接調べることができるようになってきています。フェムト秒のX線自由電子レーザーパルスを用いた構造の分析により、高い強度のダイヤモンドがどのように変形して強度を失っていくかさえ可視化されつつあります。本研究プロジェクトでは、今後このような高強度高硬度の物質がどのように溶けるか、を調べていく予定です。その第一ステップとして、単体金属では最も融点が高く硬い物質のひとつとされるタンタルを、レーザー高圧力の方法により瞬間的に高温高圧の液体状態を生成し、その構造を直接調べることに成功しました。量子力学第一原理計算の結果と比較することで、高温の液体状態が“壊れる様子”も可視化することができました。

研究の意義と将来展望

極限環境での新物質や新構造の発見は、新たな物質の多様性を示すものです。極限的高圧高温下での高速の構造相転移、融解などの状態変化、液体構造変化や金属化、そしてそれらの過程に関わる化学反応の速度など、多くの未解明の謎が存在します。また“金属水素”や“ポストダイヤモンド”に代表されるような全く新しい多形が、高エネルギー密度の条件で実験的に発見される可能性があります。地球惑星関連物質の構造変化の理解からは、惑星の内部構造や形成過程の解明に繋げることができます。高エネルギー密度科学と呼ばれる日本の強みを活かした横断的な学術が進展しており、さらに新たな展開も期待されています。

担当研究者

准教授 尾崎 典雅(工学研究科 電気電子情報工学専攻)

キーワード

パワーレーザー/新物質/極限環境/X線自由電子レーザー/レーザー加工

応用分野

物質合成/エネルギー/天体内部探査など先端基礎科学

参考URL

https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2020/20201028_1
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210521_2
https://www.asahi.com/articles/ASN767L0BN6TPLBJ004.html?iref=pc_photo_gallery_bottom 
https://www.ile.osaka-u.ac.jp/ja/blog/2019/08/21/post-4073/index.html

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。