研究 (Research)
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二次元半導体を用いた光活性化ガスセンサの開発 (Development of photoactivated gas sensor using two-dimensional semiconducting materials)
准教授 田畑 博史(工学研究科 電気電子情報通信工学専攻) TABATA Hiroshi(Graduate School of Engineering)
研究の概要
遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC)に代表される2次元半導体物質は、その高い表面体積比のために、ガス分子の吸着に対して電気特性が敏感に変化する。そのためガスセンサのセンシング材料として注目されている。一方で、このTMDCは可視光領域においてシリコンやゲルマニウム等のバルク半導体の約10倍もの高い光吸収係数を持つなど、光との強い相互作用を持つ。今回の研究では、このTMDCの一種である二硫化モリブデン(MoS2)に注目し、この単層膜を用いた電界効果トランジスタ型ガスセンサのNO2ガスに対する応答に及ぼす光照射の効果を調査した。その結果、MoS2のバンドギャップ(1.8 eV)以上の光子エネルギーを持つ可視光を照射すると、センサの応答感度や応答・回復特性が大幅に改善されることを明らかにした。
研究の背景と結果
近年のIoT技術の発展に伴い、ガスセンサの重要性が高まっている。IoT用途のガスセンサには、高感度性、高信頼性、高選択性に加えて、小型・安価で低消費電力であることが求められる。半導体ガスセンサは、小型・安価で比較的高感度であることから、IoTセンサの候補として有望視されているが、高温の動作温度が必要なため、低消費電力が大きいという欠点がある。そこで、加熱に代わる活性化方法として、光照射によるセンサ活性化が注目されている。従来、光活性化には人体に有害な紫外光が用いられてきたが、本研究では、単層MoS2をセンシング材料に用いると、可視光を用いた場合でも、室温で効率的にセンサ応答を活性化させることができることを示した。
図1は単層MoS2-FETセンサの模式図と顕微鏡写真、測定の様子を示している。図2(a),(b)はこのセンサに対してNO2 (50ppb)を曝露した時の、光照射(86 mW/cm2)下と暗状態におけるセンサ応答を示す。NO2は吸着エネルギーが高いため、室温では脱離が困難である。そのため、暗状態では、ガスパージを行っても電流はほとんど回復しない。それに対し、光照射下では、パージによって、短時間で電流値が元のレベルまで回復している。照射強度を増加すると、センサの応答速度、回復速度はいずれも増加した。このことは、MoS2中で光励起された電子・正孔対がそれぞれガス分子の吸着と脱離を促進してることを示唆している(図2(c))。
このセンサの感度と検出限界濃度はそれぞれ8.6%/ppbと0.15ppbと見積もられた。この値は環境省の示しているNO2の環境基準濃度「1日平均値の1時間値0.04~0.06ppm」を十分に下回る値であり、このセンサが大気汚染ガスのモニタリングに利用可能な性能を有していることを示している。
研究の意義と将来展望
本研究の意義は、2次元半導体物質とガス分子との相互作用に光という第三の要素を加えることで、応答特性を制御することができるという点にある。光照射によって室温で優れたセンサ性能を得ることができることから、マイクロLED等の高効率微小光源と組み合わせることにより、IoTセンサに求められる超低消費電力なガスセンサへの展開が期待できる。さらに、照射する光の波長選択や強度変調などによって、生体ガスの検知等に必要な高度な分子識別が可能になると期待される。
担当研究者
准教授 田畑 博史(工学研究科 電気電子情報通信工学専攻)
キーワード
MoS2/二酸化窒素センサ/光導電性/光活性化ガス応答/光刺激脱離
応用分野
医療・ヘルスケア/環境モニタリング/スマートデバイス