研究 (Research)

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結晶粒界の原子配列に基づく熱伝導度の直接的予測 (Predicting grain boundary thermal conductivities based on their atomic arrangement)

助教 藤井 進、教授 吉矢 真人 (工学研究科 マテリアル生産科学専攻) FUJII Susumu , YOSHIYA Masato(Graduate School of Engineering)

  • 理工情報系 (Science, Engineering and Information Sciences)
  • 工学研究科・工学部 (Graduate School of Engineering, School of Engineering)

English Information

研究の概要

機能性・構造材料の多くは、微細な結晶粒から構成された多結晶体として使用されている。結晶粒の間に形成される結晶粒界(以下、粒界と呼ぶ)は、物質の結晶構造とは異なる電子・原子配列を有する。したがって、示す性質も様々であり、結果的に機械的、電気的、熱的特性など、多岐に渡る巨視的材料特性に大きな影響を及ぼす。もし粒界構造と巨視的特性の相関を解明出来れば、材料中の微視的構造に基づいた新奇の材料設計が可能になる。本研究では、原子レベルの計算科学手法を用いて多様なMgO粒界の熱伝導度を評価した。そして、得られたデータに対して種々の機械学習を行うことで、粒界の原子配列からその熱伝導性を直接予測可能なモデルを構築した。つまり、モデル材料MgOについて、粒界構造と熱伝導度の相関関係を初めて定量的に解明した。

研究の背景と結果

粒界は材料の熱伝導度を下げる効果を持つため、特に熱電変換材料や遮熱コーティングのような遮熱性が重要な材料に積極的に導入される。しかし、どのような原子配列の粒界が熱伝導度を効率的に低下させるかは長年不明であった。これは、粒界構造やその特性の系統的評価が困難であること、そしてそれらの相関を定量的に調べる技術が確立されていないことが原因である。本研究では、原子レベルの分子動力学計算により、モデル材料MgOにおける90種以上の粒界構造とその熱伝導性を評価してきた。この手法では、原子の振動状態を10-15秒のオーダーで模擬することが出来る。原子振動は熱を伝えるキャリアの一つであるため、熱伝導度も評価出来る。まず、焼きなまし法によってMgO粒界の構造を系統的に求めた。具体的には、アモルファス化させたMgOを結晶粒で挟み、高温から徐々の温度を低下させることで原子振動による自発的な再配列を促し、安定な粒界構造を得た。それらの粒界に対して、摂動分子動力学法によって系統的に粒界の熱伝導度を求めた。原子レベルの熱伝導性を可視化したところ、局所的な原子配列の乱れに応じて熱伝導度が低下する傾向が見られた。粒界構造と熱伝導度の関係を解明するため、粒界構造を構成する一つ一つの配位環境を構造記述子によりパラメータに変換した。このパラメータはある原子の配位環境に対して一意であるため、原子配位環境の指紋のように扱える。これを入力とし、階層的クラスタリングを行うことで、粒界近傍の原子配位環境をいくつかのグループに分類した(結合欠損有、結合歪み大など)。そして、これらの原子配位環境がどれだけ粒界近傍に存在するか(数密度)を入力とし、線形重回帰分析によって熱伝導度の予測モデルを構築した。その結果、MgO粒界の原子をわずか6つのグループに分類すれば、多様な粒界の熱伝導度を高精度に予測可能なことが判明した。また、わずかな結合歪みが熱伝導度を十分に低下させるという、材料学的知見も明らかになった。

研究の意義と将来展望

本研究で開発した予測手法を他の実用材料に応用すれば、熱電変換材料など、遮熱・放熱に関連する機能性材料全般の材料設計に役立つ指針が得られる。また、粒界エネルギーの構造依存性へと研究を展開すれば、多結晶体中に形成されやすい粒界構造を把握することができ、材料プロセスの最適化に繋がる。さらに、熱伝導度以外の巨視的特性の構造依存性も併せて解明すれば、複数特性の同時制御を粒界分布によって実現でき、多機能性を有する新規材料の開発に繋がる。

担当研究者

助教 藤井 進、教授 吉矢 真人 (工学研究科 マテリアル生産科学専攻)

キーワード

計算材料科学/機械学習/ナノ構造/格子欠陥/熱伝導

応用分野

エネルギー/電子デバイス

参考URL

http://www.mat.eng.osaka-u.ac.jp/msp8/index_j.html

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。