研究 (Research)

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材料の強さに与える水素の影響の原子論的解明 (Atomistic study of hydrogen effects on materials strength)

教授 尾方 成信(基礎工学研究科 機能創成専攻) OGATA Shigenobu(Graduate School of Engineering Science)

  • 理工情報系 (Science, Engineering and Information Sciences)
  • 基礎工学研究科・基礎工学部 (Graduate School of Engineering Science, School of Engineering Science)

English Information

研究の概要

水素が材料を脆くする水素脆化現象は古くから知られており、その現象は先端高強度材料で特に顕著になることがわかっています。本研究では、実験観察が極めて困難な、変形や破壊を起こしている材料中での水素の存在様態や水素の振る舞いを、高精度原子シミュレーション(分子動力学解析)によって解析し、水素が材料の欠陥に作用し材料に破壊をもたらすメカニズムの詳細を明らかにしています。これまでの材料中水素シミュレーションのボトルネックであった、原子間相互作用の精度と計算量の問題を、ニューラルネットワークを用いることで解消し、これまでにない精度と規模を両立した原子シミュレーションを実現し、それを可能としました。

L. Wan, S. Ogata et al., Int. J. Plasticity( 2019)

研究の背景と結果

水素脆化現象のメカニズムについて半世紀以上にわたり多くの研究がなされ、いくつもの説が提唱されています。しかしながら、変形や破壊を起こしている材料中の水素の直接観察が困難なことから、決定的なメカニズムがなにかについてこれまで明らかになっておりませんでした。水素脆化現象の解明に向けた研究はこれまで実験と原子シミュレーションの両側面から実施されてきました。実験では、水素を直接観察することができないため、間接的なデーターを集めてそれに基づいてメカニズムを推測するというアプローチがとられてきました。一方、分子動力学法を代表とする原子シミュレーションでは、水素の材料中の振る舞いを直接解析できるものの、その解析精度を左右する原子間相互作用の精度と計算量にバランスに問題がありました。Density functional theoryに基づく高精度な第一原理計算は精度の点では優れていますが、計算コストが高く、メカニズム解明に不可欠な材料中の欠陥の振る舞いや破壊、さらにはそれらと水素との関連の解明に資することはできませんでした。一方、簡便な原子間相互作用を用いた計算も行われてきましたが、解析精度に問題があり、結果の信頼性に疑問が残るものでした。我々の研究では、ニューラルネットワークに高精度な第一原理計算結果を機械学習させることにより、高精度を維持しつつ大規模な原子シミュレーションを可能とし、それにより材料中の水素の振る舞いをこれまでにない精度とスケールで追うことが可能となりました。本研究を通じて、水素が材料中の欠陥と強く相互作用し、材料中の欠陥運動や欠陥の増殖を加速するという、水素脆化の根本メカニズムのひとつが原子レベルから明らかになりました。得られた新たな知見に基づいて、これまでに提唱された水素脆化メカニズムを俯瞰してみると、何れのメカニズムも作動していることがわかりました。すなわち、どれか単一のメカニズムだけでなく、それらが有機的に連携しながら発現して水素脆化を引き起こしていることがわかりました。

F. Meng, S. Ogata et al., Phys. Rev. Mater.( 2021)

研究の意義と将来展望

水素脆化現象の解明は水素社会において水素を安全に取り扱うために不可欠な課題です。半世紀以上にわたり水素脆化に対する多くの実験的研究やシミュレーション研究が実施されていましたが、材料中の水素の直接観察が困難さや、シミュレーション手法の精度と計算量のバランスの問題から、その解明は未達成のままでした。本研究では、高精度原子間相互作用を開発することで従来研究のボトルネックを取り払い、長年の水素脆化研究における課題を解決し、その解明を可能としました。今後、水素に強い材料の材料設計指針を構築や、耐水素材料の開発の加速が期待されます。

担当研究者

教授 尾方 成信(基礎工学研究科 機能創成専攻)

キーワード

水素脆化/変形と破壊/原子シミュレーション/機械学習

応用分野

水素ステーション/水素自動車/高強度構造材料

参考URL

https://tsme.me.es.osaka-u.ac.jp/publications.html

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。