研究

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有用特化代謝産物を微生物や植物で持続生産させる

准教授 關 光、教授 村中 俊哉(工学研究科 生物工学専攻)

  • 理工情報系
  • 工学研究科・工学部

研究の概要

薬用植物カンゾウの地下部に含まれるグリチルリチンは、肝臓疾患改善薬などの医薬品原料のほか、砂糖の約150倍の甘さを持つことから天然甘味料としても使用されています。甘草はほぼ全量、海外からの輸入に頼っていますが、優良品の減少や価格の上昇が問題となり、持続的な代替製造法の開発が求められていました。わたしたちは、カンゾウにおけるグリチルリチン生合成遺伝子の単離・機能解析に取り組んできました。2019年に2糖目の糖転移酵素(UGT73P12)、2020年に1糖目の糖転移酵素(CSyGT)を、そして、2021年にグリチルリチン産生/非産生カンゾウの分子メカニズムを解明しました。さらに合計7つの遺伝子を出芽酵母に導入することにより、酵母でのグリチルリチン産生に成功しました。

研究の背景と結果

トリテルペン配糖体(一般にサポニンと呼ばれる)はトリテルペンの炭素骨格に複数の糖が結合した化合物群で、多くの生薬において主な有効成分であることが知られています。薬用植物カンゾウの根(甘草)は漢方で最も多く処方される生薬で、そこから抽出されるサポニンであるグリチルリチンは肝臓疾患改善薬などの医薬品原料のほか、砂糖の約150倍の甘さを持つことから天然甘味料としても使用されています。サポニンが植物細胞の中で合成される過程、すなわち「生合成経路」には、トリテルペン炭素骨格を酸化修飾して多様な構造のアグリコン部を生成するシトクロムP450モノオキシゲナーゼ (CYP) に続いて、アグリコン部に糖を結合(配糖化)する複数のUDP糖依存型配糖化酵素 (UGT) が関わることが広く知られていました。私たちは、まず、グリチルリチン生合成に関わるCYPを、次に、配糖化反応の第二段階である2糖目のグルクロン酸を転移するUGTとしてUGT73P12を単離しました(Nomura, Seki et al. 2019)。ところが、配糖化反応の第一段階である3位水酸基へのグルクロン酸転移反応を触媒する酵素が未解明のままでした。私たちは、遺伝子共発現解析手法を用いて、遺伝子を絞り込むことで未解明のグルクロン酸転移酵素の候補を探索しました。その結果、UGTとは異なり、植物細胞壁を構成する多糖であるセルロースの合成酵素に類似性の高い機能未知タンパク質(CSyGTと命名)が、3位水酸基へのグルクロン酸転移反応を触媒する酵素であることを見出しました(Chung, Seki et al. 2020)。また、グリチルリチン産生/非産生カンゾウの分子メカニズムを解明しました(Fanani et al 2021)。さらに、CSyGTを含む合計7個の植物酵素遺伝子を酵母に導入することによってグリチルリチンを生産する酵母の作出に世界で初めて成功しました。

研究の意義と将来展望

今回発見した遺伝子群を導入した酵母や植物を用いたグリチルリチンの工業生産への道が拓かれ、ひいては自生カンゾウの乱穫防止、生態系の保全にも役立つことが期待されます。植物は、100万種類とも言われる多種多様な特化(二次)代謝産物を産生します。グリチルリチン以外の多くの特化代謝物においても、合成生物学、ゲノム編集などの新技術を適用することにより、医薬品原料、機能性食品、工業原料などに使われる、環境にやさしく持続的な物質生産システムを構築することが期待できます。

担当研究者

准教授 關 光、教授 村中 俊哉(工学研究科 生物工学専攻)

キーワード

ゲノム編集/合成生物学/植物特化代謝/代謝工学/薬用植物

応用分野

機能性食品/医療・ヘルスケア/工業原料

参考URL

http://www.bio.eng.osaka-u.ac.jp/pl/index.html
http://www.bio.eng.osaka-u.ac.jp/pl/index_e.html

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。