研究

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イオン結晶を用いた希土類クラスターの結晶内形成

准教授 吉成 信人、教授 中澤 康浩(理学研究科 化学専攻)

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研究の概要

希土類水酸化物クラスターは、分子中に多数の希土類イオンが集積していることから、磁性材料、発光材料、触媒材料などへの応用が期待されています。しかしながら、希土類水酸化物は、容易に無限構造へと変換されてしまい、孤立したクラスターの状態にとどめておくことは一般には困難です。そのため、希土類水酸化物クラスターを得るためには、綿密に設計された厳密な反応条件下での合成が必須となっています。

今回、我々の研究グループは、以前に我々が開発した水和カリウム超イオン伝導体の結晶を希土類イオン溶液に浸すだけで、単結晶性を保ったまま、結晶内部にキュバン構造をもつ希土類水酸化物クラスターが形成されることを見出しました。キュバン構造の形成が確認された希土類イオンは、重ランタノイドと呼ばれるGd3+~Lu3+の8種類です。また、得られた結晶が、希土類クラスターに特有の磁気冷凍効果および農薬モデル化合物の分解反応を示すことも確認されました。

図1.希土類水酸化物クラスターの結晶内合成の模式図

研究の背景と結果

錯体化学の分野では、予め合成した配位高分子等の結晶に対して化学反応を行い、結晶状態を保ったまま新しい化合物に変換する、「合成後修飾」と呼ばれる手法が研究されています。今回の研究は、配位高分子ではなく、イオン結晶に対して合成後修飾を試みたものです。

我々は、2018年に、カリウムイオンが結晶中で極めて高い運動性を示す「水和カリウム超イオン伝導体結晶(K6[Rh4Zn4O(l-cys)12]·nH2O)」を報告しています。今回、この結晶中のカリウムイオンを希土類イオンに交換することを目的として、酢酸ルテチウム(Lu(CH3COO)3)の溶液にイオン伝導体結晶を浸す実験を行いました。その結果、イオン伝導体との電荷バランスから想定される2個ではなく、4個以上のLu3+イオンが結晶中に導入されることを見出しました。単結晶X線構造解析により、得られた結晶には、キュバン構造を有する希土類水酸化物クラスター([Lu4(OH)4(CH3COO)3(H2O)9]5+)が形成されていることが判明しました。反応前後で、イオン伝導体結晶の骨格構造には変化がなく、イオン交換反応により、キュバンクラスターが導入されています。この反応は、Lu3+イオンとイオン伝導体結晶の反応比を調整する必要もなく、単に、室温において結晶を溶液に浸すだけで進行します。従って、既存の希土類水酸化物クラスターの合成法よりも大幅に簡素化されています。

Lu3+の他に、イオン半径の小さいGd3+, Tb3+, Dy3+, Ho3+, Er3+, Tm3+, Yb3+の希土類イオンについても、結晶内にキュバン構造の形成が確認されました。これらキュバン構造をもつ結晶については、農薬の骨格に用いられるリン酸エステル類の分解を触媒する不均一触媒として働くことがわかりました。また、Gd3+キュバンをもつ結晶では、磁場を変化させると1.8 Kまで冷却されることが確認され、磁気冷凍材料として機能することも判明しました。

図2.合成された希土類水酸化物クラスターの構造

研究の意義と将来展望

本研究成果により、綿密な合成条件の設計を行わずとも、イオン結晶を用いた結晶内合成により、希土類水酸化物クラスターを簡便かつ効率よく合成できることが示されました。今回の手法により合成される希土類クラスターは、希少資源であるヘリウムを使わない極低温の実現および農薬分解による水環境の浄化に役立つと期待されます。

担当研究者

准教授 吉成 信人、教授 中澤 康浩(理学研究科 化学専攻)

キーワード

希土類元素/金属クラスター/磁気冷凍/不均一触媒

応用分野

磁気冷凍材料/農薬分解

参考URL

http://www.chem.sci.osaka-u.ac.jp/lab/konno/index.html

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。