研究

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実験とデータ科学を融合した次世代太陽電池の開発

教授 佐伯 昭紀(工学研究科 応用化学専攻)

  • 理工情報系
  • 工学研究科・工学部

研究の概要

持続可能なエネルギー源として高効率・低コストな次世代太陽電池の開発が進められており、有毒元素を含まない有機太陽電池はその一つです。本研究では、マイクロ波を用いた独自の太陽電池評価法と機械学習(人工知能)を融合した、ハイスループット材料探索と基礎過程の解明を行っています。また、ペロブスカイト太陽電池に代表される有機無機ハイブリッド材料もターゲットにしています。

研究の背景と結果

すでに実用化されている太陽電池はシリコンや無機化合物半導体で作製されており、その変換効率もかなり高くなっています。一方、電気を流す高分子を使った高分子太陽電池は、プラスチックフィルムのように軽量で曲げ性や耐衝撃に優れ、インクジェットプリンターのような常圧下での溶液プロセスで作製できるため、低価格化も期待できます。また、色や形状の自由度も高いため、多彩で多様な用途も期待されています。しかし、その変換効率は、材料の化学構造だけでなく、素子作製における多くの複雑な因子で左右されるため、時間のかかる量子化学計算や合成・実験で候補材料を個々に検証する必要があり、効率的な材料探索のボトルネックとなっていました。その課題解決のため、本研究グループでは、独自のマイクロ波分光装置による高速実験スクリーニング法の開発や機械学習による高分子・フラーレン太陽電池の材料探索法を開発してきました。さらに、高分子・非フラーレン太陽電池の機械学習モデルを構築し、約20万種類の高分子を仮想的に生成・スクリーニングしました。この結果を基に新規高分子を合成し、機械学習の予測値と比較したところ、良い一致を示しました。特に、最適なアルキル鎖の形や長さに対して機械学習モデルは最適な構造をピタリと当てることができました。本研究で実証した高精度な機械学習モデルは、今後の高分子太陽電池開発において強力な手段となりえます。

研究の意義と将来展望

すでに実用化されているシリコン等の無機太陽電池に対し、有機太陽電池は軽量・低コスト化によってビル壁面や軽量建造物での利用が期待できます。しかし、有機材料の化学構造は無数に設計できるため、新規材料の設計・合成・評価には多くの時間と労力が必要でした。本研究では、高分子と非フラーレン電子アクセプターからなる高分子太陽電池に着目し、実験データに基づく機械学習モデルを構築してハイスループット高分子材料探索を行いました。本モデルで上位にランキングされた新規高分子のうちの4つを実際に合成し、太陽電池素子性能を評価したところ、機械学習の予測と良い一致が得られ、本アプローチの有効性を示すことに成功しました。これにより、さらに高効率な高分子太陽電池の開発や、マテリアルズ・インフォマティクスによる材料科学研究において、実験と機械学習を融合した研究展開が大きく期待されます。

担当研究者

教授 佐伯 昭紀(工学研究科 応用化学専攻)

キーワード

太陽電池/機械学習/マイクロ波分光/有機半導体/ペロブスカイト

応用分野

グリーン・イノベーション/創エネルギー/マテリアルズ・インフォマティクス

参考URL

http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~saeki/cmpc/
https://publons.com/researcher/1310687/akinori-saeki/

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。