研究 (Research)
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デンマークと日本の高齢者介護における自立支援とウェルフェア・テクノロジーに関する研究 (Research on reablement and welfare technology in elderly care in Denmark and Japan)
教授 石黒 暢(人文学研究科) ISHIGURO Nobu(Graduate School of Humanities)
研究の概要
社会福祉学の立場から高齢者介護における自立支援とウェルフェア・テクノロジーに着目し、介護サービス利用者と公的介護制度の狭間において多様な要因の影響を受けながら裁量的判断を行う介護専門職の介護サービス提供プロセスを多面的に明らかにしようとする国際比較研究である。日本とデンマークの介護現場で自立支援やテクノロジー活用を図り利用者を支援する専門職の実践を、質的調査法によって調査・分析することにより、公的政策と利用者をつなぐ「境界関係」に働く動的なメカニズムを詳細に解明し、それが各国の介護の構造的・文化的要因から/にどのようなインパクトを受ける/与えるのかを明らかにする。
研究の背景と結果
人口の高齢化が進展する先進諸国では今後ますます増大する介護ニーズへの対応を検討する必要性に迫られている。最近の介護政策においてみられるグローバルな潮流は、自立支援型介護の強調とテクノロジーの活用である。介護保険の持続可能性が危ぶまれるなか日本政府は、2016年から自立支援型介護に軸足を置くことを明言するとともに、ICT 化が大幅に遅れている介護分野において、ICT 技術や介護ロボット等のテクノロジーを今後活用促進していくことを打ち出している。しかし、自立支援型介護やテクノロジーの活用を目指す国の政策立案や決定は、そのままダイレクトに国民に届くわけではなく、現場の最前線にいる介護専門職の実践プロセスの複雑なメカニズムをへて分配されるのである。そのメカニズムを次のような視点から明らかにしたい。介護専門職は、制度の「標準性」と利用者の多様な「個別ニード」との矛盾を「現場裁量」によって解決を図っていくという実践を日々行っている。このような介護専門職の仕事上の裁量はジョブ・クラフティング(job crafting, 労働者が仕事のタスク境界や関係的境界で起こす物理的・認知的変化のこと)理論を援用して整理できる。制度と市民の狭間を「境界関係」と呼ぶならば、「境界関係」にいる専門職は、国の制度やガイドラインに依拠しつつ、その複雑な「立場性」に基づき、裁量的判断を行い、ジョブ・クラフティングを行っている。介護専門職は、異なる役割期待が同時にかけられ、役割葛藤を抱えるなかで介護サービス提供を行っているのである。介護専門職は、利用者との相互作用のなかで標準的な支援をどのように個別支援に変えていくのか、また、政策が意図する支援と介護専門職の裁量的判断の間にはどのようなずれが生じているのか、介護専門職の実践はその国の制度的な背景や文化的背景にどの程度影響を受けるかを本研究では明らかにする。
研究の意義と将来展望
マクロな福祉国家理論に基づく介護政策の国際比較研究にとどまらず、介護専門職の視点に焦点をあてた質的調査に基づいて、ミクロな視点で介護現場における制度的要因と実践のアウトプットとの相互関係を国際比較から解明する点が本研究の意義である。制度・政策の実効性を高める基盤となる理論の開発を目指しており、これは持続可能な介護制度の構築という社会課題の解決につながると考えられる。また、国際比較を行うことにより、日本の特徴を浮き彫りにするとともにその立ち位置を相対化し、国際的な文脈のなかで議論する際の基礎となる知見を提供したいと考えている。
担当研究者
教授 石黒 暢(人文学研究科)
※本学ResOUのホームページ「究みのStoryZ」に、インタビュー記事が掲載されています。是非ご覧ください。
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2017/g003585/
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2017/g003584/
キーワード
介護/テクノロジー/福祉用具/自立支援/北欧
応用分野
高齢者福祉・介護