研究

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分光と人工知能を用いた人獣共通感染症の予防法構築のための研究

准教授 住村 欣範(グローバルイニシアティブ機構)、教授 猿倉 信彦(レーザー科学研究所)

  • 理工情報系
  • レーザー科学研究所

研究の概要

新興感染症うち6割以上が人獣共通感染症であり、新型コロナウイルスはその典型である。また、再興感染症において重要な薬剤耐性の問題は、人間だけでなく、家畜に対する抗菌薬などの薬剤の使用においても発生している。そして、これらの新興再興感染症の出現と蔓延に関する因子のほとんどが、人間の社会、あるいは、人間の社会活動と自然環境(特に動物)の関係の変化によるものである。本研究では、病原体そのものの研究や医薬品の開発ではなく、病原体を媒介・拡散させる人的因子と環境因子について、特に、分光法と人工知能を用いて解明し、新興感染症・動物間感染症の予防対策の基盤としようとするものである。当面の研究テーマは、鳥インフルエンザと薬剤耐性菌である。

図1:鳥インフルエンザウイルスの伝播経路

研究の背景と結果

人類が農業や産業革命およびグローバル化を通じて地球規模の環境変化をもたらしている時代のことを人新世と呼ぶようになっており、1970年以降の新興再興感染症も人新世において特徴的な事象である。新興感染症の多くを構成する人獣共通感染症の病原体は、野生動物においてプールされ、変異したものが、動物から直接、あるいは媒介生物・物を経て人間に伝播し、さらに人間の社会的な活動によって拡散する。そして、病原体の変異も人為的に引き起こされており、人間や家畜への薬剤の不適切な使用によって、病原体に耐性が起きる薬剤耐性がその一例である。このような状況を背景とし、本研究では、自然開発、集約畜産、化学物質の大量使用、都市化などの社会的要因をターゲットとして、新興再興感染症と野生生物と動物間の感染症に対する予防対策となりうる技術を研究することとした。現在、進めているは、渡り鳥の環境認識についての研究である。新型コロナウイルスの場合、自然宿主である動物に人間が接触して初期の感染がおこったが、新たな病原体の出現にはこれとは異なる経路がある。渡り鳥による遠隔地からの病原体の伝播がその一つである。
2020年の秋から2021年の春にかけて、西日本を中心に各地で鳥インフルエンザが発生したが、その発生地は過去とは大きく異なっていた。人間には容易に感知できない要因が関係していいたことが推察されたため、渡り鳥による環境認識を研究テーマとし、鳥には見えるとされる紫外線を用いた環境認識系を構築している。今後は、渡り鳥にとってどのような水環境が飛翔地に適しているかということを、人為的な要因も含めて、AIを用いて解析する見込みである。

図2:紫外線カメラを用いた水禽にとっての水環境の分析

研究の意義と将来展望

本研究の意義は、第一に、新興再興感染症・動物間感染症の予防につながる技術の開発、第二に、野生動物、生態系、家畜、人間の間の感染の機序の解明、第三に、人間以外の生物にとっての環境認識の理解、第四に、理工学的技術の環境分野における応用可能領域の拡大にある。将来的には、これらの研究成果に基づいた予防システムを開発し、日本やベトナムにおいて実装したいと考えている。また、研究のプロセスを通して、産業資本主義社会における人間と動物の間の非対称な関係についても考察を行いたい。

表1:新興感染症の出現とパンデミックに関与する因子

担当研究者

准教授 住村 欣範(グローバルイニシアティブ機構)、教授 猿倉 信彦(レーザー科学研究所)

キーワード

新興再興感染症/人獣共通感染症/動物/環境/AI

応用分野

感染症対策/生態系保護/畜産

参考URL

https://www.ssi.osaka-u.ac.jp/activity/core/infection/

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。