研究 (Research)

最終更新日:

社会デザインと批判デザインとの相互関係をめぐる歴史的展望 (Historical perspectives on the interrelationship between social design and critical design)

教授 高安 啓介(人文学研究科) TAKAYASU Keisuke(Graduate School of Humanities)

  • 人文学社会科学系 (Humanities and Social Sciences)
  • 人文学研究科・文学部・外国語学部 (Graduate School of Humanities, School of Letters, School of Foreign Studies)

研究の概要

非商業系デザインのうちには二系列の取り組みがあった。社会デザインsocial design が、 人々がいま直面する問題の解決を目指すのなら、批判デザインcritical design は、差し迫った 問題解決をいったん保留して、何が本当に問題なのかを問うたり、思っても見なかった可能 性を示唆したりと、アートに近い試みとして知られる。
両者ともに関心をもたれているが、 各々の歴史はあまり省みられることはなく、両者は一対をなす仕事であるにもかかわらず、 両者の関係は深く問われなかった。本研究は、歴史資料にもとづき、非商業系デザインの二系列の歴史について比較をおこない、デザインに要求される問題解決のありかたを考察する。

研究の背景と結果

社会デザインの先例として、ウィリアム・モリスのような先駆者の仕事がしばしば引き合いに出されてきた。社会デザインの近年の事例は、書籍・論文・展示により紹介されている。多くの場合、折々の問題関心から参考となる過去の事例が見出されてきたが、経験の蓄積とともに、社会デザインのこれまでの歩みを振り返ることも必要となってきた。今後のアーカイブ化のためにも、今後のデザイン教育のためにも、目先の実践をめぐる議論だけでなく、大きな歴史をめぐる議論がもとめられる。本研究がそこで提案するのは、社会デザインの次の三段階モデルである。第一に、労働のありかたを見直しながら、美しいものを生み出そうとする段階ラスキンに始まり、モリスがその模範をしめしたと考えられる。第二に、消費のありかたを見直しながら、必要なものを生み出そうとする段階ヴィクトール・パパネクがその代表である。第三に、コミュニティのありかたを見直しながら、人と人とのつながりを生み出そうとする段階。ここで注目したいのは、山崎亮である。以上の三つの区分が、社会デザインの分類図式としても、社会デザインの発展段階としても、社会デザインの実践手順としても、有効となりうるかを資料にもとづき検証している。社会デザインと一対をなす仕事として、批判デザイン critical design ないしは思弁デザイン speculative design と呼ばれる、自由な取り組みかが注目されてきた。目先の必要への集中が、柔軟な考えを妨げる可能性もあるため、問題解決にとらわれず、本当の問題を明らかにしようとしたり、誰も考えないような生きかたを見出そうとしたりする。この考えは、ダン & レイビーによって提唱され、日本でもデザイン教育に取り込もうとする機運が高まっている。理論はすでに紹介され、事例もまた事欠かないが、社会デザインの歴史がいまだ十分に描かれていない以上に、批判デザインの歴史もまだ十分に書かれていない。両者はあいまいに混同され、両者の関係を問うような視点はいまだ得られていない。本研究はそこで、批判デザインの展開について資料にもとづき考察している。

研究の意義と将来展望

一方において、社会デザインへの高い関心があり、他方において、 批判デザインやそれに類するアートが試みられてきたが、両者の関係を問う試みはほとんどなく、二つのカテゴリーは混同される場合もある。そこで、両者を区別して各々の歴史を描いて比較すれば、今日いわれる「問題解決」がいかに時代に条件づけられているか分かるようになる。たしかに、二つのいずれか区別できない事例もあるが、両者を区別するからこそ、両者の中間にあるような試みを評価できるようになる。本研究はそうした中間の試みを、思弁的(スペキュラティヴな)社会デザインと呼んで、見えにくい傾向を浮き彫りにする。

担当研究者

教授 高安 啓介(人文学研究科)

キーワード

社会デザイン/批判デザイン/思弁デザイン/問題解決/問題提起

応用分野

環境保全/地域社会/農と食

参考URL

http://www.let.osaka-u.ac.jp/bigaku/staffs/takayasu.html

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。