研究 (Research)
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EBPMのさらなる進展を目指して (Towards further progress in EBPM)
教授 松林 哲也(国際公共政策研究科) MATSUBAYASHI Tetsuya(Osaka School of International Public Policy)
研究の概要
現代の日本はさまざまな政治的・社会的・経済的問題を抱えている。それらの問題の解決には原因究明と効果検証という2つのアプローチが欠かせない。政治・行政・医療・教育・ビジネスなどの現場において、問題を生じさせた原因とそのメカニズムを理解すること、この理解に基づいて問題解決に役立ちそうな政策を立案すること、そして立案・実行された政策が実際に期待通りの効果を発揮したのかの検証を行うこと、つまりEvidence-based policy-making(EBPM)が求められている。このような状況を背景に、政治学と公衆衛生学の分野において、因果推論とデータ分析を駆使してEBPM推進につながる研究を行ってきた。具体的には、政治学では「なぜ日本の投票率は低いのか、どうすれば投票参加を促進できるのか」、公衆衛生学では「どのような政治経済的状況で自殺は増えるのか、どうすれば自殺を防止できるのか」という問いを設定してきた。
研究の背景と結果
近年の国政選挙での投票率は50%程度であり、これは日本の有権者1億人のうち約半数である5000万人ほどが棄権したことを意味する。低投票率を改善するため、投票時間の延長や期日前投票制度の導入といった制度変更が行われてきた。加えて、国や自治体は投票啓発活動の実施を通じて、積極的な投票参加を有権者に呼びかけてきた。では、これまでの制度変更や投票啓発活動は本当に効果があったのだろうか。そもそも、どのような状況において有権者は活発に投票参加するのだろうか。
自殺という全く別のトピックに目を向けた場合、似たような疑問が生じる。2000年代を通じて年間3万人を超えていた自殺者数は、2010年代に入り大きく減少してきた。この減少には、自殺対策基本法の制定以来、地道に実施されてきた自殺対策が功を奏した可能性があるし、あるいは経済状況の好転が理由となっているのかもしれない。では、これまで実施されてきた自殺対策のうち、どの対策がより効果があったのだろうか。経済状況が改善すると誰の自殺が減るのだろうか。現在でも自殺は年間20000件ほど発生するが、その背後にはどのような理由があるのだろうか。
原因究明と効果検証を念頭に置いた上記のような疑問を設定すること、そして因果推論とデータ分析を活用して解答を見つけ出すことは、社会に存在する問題の解決に向けた第一歩である。政治・行政・医療・教育・ビジネスなどの分野では、問題への対処方法が場当たり的に選ばれることもある。投票啓発や自殺対策も例外ではない。限られた資源のなかで有効な対策を実施するには、問題発生の原因とそのメカニズムの理解、この理解に基づく政策立案、その政策の効果検証、つまりEBPMが不可欠である。EBPMに資するような情報を提供すべく、これまで因果推論とデータ分析を駆使して研究を行ってきた。右図1は原因究明を目的としており、東日本大震災の発生後に被災地では男性中年層の自殺率が低下したことを示している。右図2は効果検証を目的としており、2016年以降の参院選挙における選挙区合区が合区対象県の投票率を低下させたことを示している。
研究の意義と将来展望
政治・行政・医療・教育・ビジネスなどの現場における喫緊の課題を解決するためのエビデンスをさらに蓄積していくには、各現場と研究者の協力体制を築くことが不可欠である。自分の研究分野に限らず、各分野で問題解決に尽力されている方たちとの対話や協同を通じて、問題の迅速な発見、原因究明や効果検証に必要なデータ収集の効率化、社会実験の導入による効果検証、先行研究の知見の整理と活用を目指し、最終的には学術貢献と社会貢献の両方が可能になるような体制づくりに努力したい。
担当研究者
教授 松林 哲也(国際公共政策研究科)
※本学ResOUのホームページ「究みのStoryZ」に、インタビュー記事が掲載されています。是非ご覧ください。
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2018/6j9pxn/
キーワード
因果推論/データ分析/投票率/自殺対策
応用分野
効果検証/社会実験/投票啓発/自殺対策