研究 (Research)
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企業が開示する多様な情報に基づくデータ分析 (Data analysis using a variety of information disclosed by companies)
准教授 村宮 克彦(経済学研究科) MURAMIYA Katsuhiko(Graduate School of Economics)
研究の概要
上場企業が自社の財務について定期的に開示する財務諸表情報は、投資家が企業をよく知り、望ましい投資先を選別するための貴重な情報源の1つです。株式市場では、こうした情報を含め、企業の将来見通しを左右する情報が絶えず株価へと織り込まれ、刻々と価格が変化していきます。ただし、時として、ある企業特性を持った銘柄群の株価が理論的な価格から一時的に乖離することがあります。財務諸表情報をはじめとしてあらゆる情報を多角的に分析し、様々な株式のあるべき価格を評価し、それが現在の株価から乖離する銘柄を特定することによって、株式市場においてより良い投資成果が得られる戦略がないかを模索しています。
研究の背景と結果
ここでは、過去に行った研究の成果や現在進行中の研究の内容を簡単に紹介します。一つは、公表財務データを活用した投資運用に関する研究です。理想的な世界では、公表された情報は瞬時に株価に反映され、私たちはその情報をもとにいかなる戦略を立てたとしても、投資のリスクに見合う以上のリターンを獲得することはできません。しかし、たとえば、図1に示すように、ある情報をもとに企業をランキングし、もっともランキングが高いグループともっともそれが低いグループに別々に投資をすれば、それが高い(低い)グループほど、投資後の12ヶ月にわたり高い(低い)投資パフォーマンスが観察されることが分かりました。これは、公表済みの財務データを分析する意義があることを裏付けるものです。
もう一つの研究は、株式に投資する人達が一体どれほどのリターンを見込んで、それぞれの銘柄に投資しているかを推定する試みです。投資家が期待しているリターンは、価値創造を使命とする企業にとっては意識する必要のある目標の一つになります。投資家が期待するリターンを正確に把握することは超えなければならない目標を適切に捉えることに繋がり、より良い企業経営が促進されることになります。実務の世界では、CAPMと呼ばれるモデルが頻用されていますが、そのモデルは盤石な理論に裏打ちされた洗練されたモデルである一方で、現実の株式市場の動きをほとんど説明できないという実証上の大きな問題点を抱えています。そこで、図2で示した研究では、理論的な裏付けもあり、かつ、現実の株式市場の動きも説明するような期待リターンの推定方法を開発するのに一定程度成功しています。
最後は、目下取り組んでいる研究です。それは企業がどの程度ESGやSDGsに熱心に取り組んでいるかを可視化し、人々がそうした情報をも参考にしながら投資先を選別したり、消費を行えるようにするプラットフォームを作ることに取り組んでいます。そこでは、ESGやSDGsに対する取り組みが、企業にどのような経済的帰結をもたらすかを明確にすることを最終目標にしています。ESGやSDGsへの取り組みが、より安価に資本を調達したり、消費者の購買意欲を向上させたりすることに繋がっていることを示せれば、これまで無関心だったような企業も積極的にそれらに取り組むようになり、社会に一層の好循環がもたらされるようになると期待されます。
研究の意義と将来展望
いま、ある優良企業の株価が割安のまま放置され、それが一連の分析によって発見できたとしましょう。その研究成果が実運用へと活用されれば、その銘柄には買い注文が入り、割安な状況は解消され、株価は早晩理論的な価格に収束することになります。その結果、優良企業の株価は高くなり、多くの資金を集め、ビジネスを拡大することができるという、効率的な資源配分が促進されることになるのです。これが本研究の意義です。より多くの人が財務データや株価データを分析するスキルを身につけることができれば、市場ではより効率的な資源配分が促されることになるでしょう。学生や社会人に至る広範な方々が自らの手でそうしたデータの分析ができるようになることを手助けするため、笠原晃恭講師ととも入門書を執筆するなど、現在は、データサイエンス教育にも力を入れています。
担当研究者
准教授 村宮 克彦(経済学研究科)
キーワード
財務会計/金融市場/データサイエンス
応用分野
ソーシャルイノベーション