研究 (Research)
最終更新日:
分子内ホッピング伝導の高効率化に向けた長鎖分子導線の開発 (Development of molecular wires towards efficient intramolecular hopping transport)
教授 家 裕隆(産業科学研究所 ナノテクノロジーセンター ソフトナノマテリアル研究分野) IE Yutaka(SANKEN (The Institute of Scientific and Industrial Research))
研究の概要
分子レベルまで超微小化した単分子エレクトロニクス実現のためには、π共役系分子で構成される高性能の分子導線の開発が不可欠である。我々は、一定間隔で分子構造にねじれをもち、かつ、分子間の相互作用を排除する構造を持つ数ナノメートルスケールの完全被覆型分子導線の開発に成功した。単分子の電気伝導測定を行い、一定間隔でねじれをもたせることで、分子内のホッピングサイトが均質化し、電気伝導特性が向上することを明らかにした。
研究の背景と結果
1974年にAviramとRatnerは有機単分子に電子素子としての機能を付与することができれば、“単分子エレクトロニクス”が可能になると提唱した。単分子エレクトロニクスでは構造変換が自在に行える有機分子の特徴を活かせることから、究極のボトムアップのアプローチで素子構築が可能である。この根幹を担う分子内の電気伝導は、通常、量子効果に基づくトンネル伝導が多く見られるが、分子の長さが数ナノメートルスケール以上になると、正孔などのキャリアが分子内に局在し、分子内の電子準位(ホッピングサイト)を飛び移りながら移動していくホッピング伝導が主要なメカニズムとなる。単分子エレクトロニクスや有機エレクトロニクスでは、長距離電気伝導において重要なホッピング伝導の高効率化の指針を得ることが、実用化に向けた重要な課題である。これまでにホッピングサイトを均質に揃えることがホッピング伝導の効率化に有効と理論的に提案されていた。しかし、この仮説を検証するため必要な、(1) 数ナノメートルスケール、(2) 分子間相互作用を排除した完全被覆構造、(3) 分子長の精密な制御、を兼ね備えた分子の有機合成が困難であるため、実験的な研究は遅れていた。この研究背景のもと、我々はこれまでに、高い共役平面性を維持することがホッピング伝導の向上に有効であることを明らかとしていた。今回、高い共役平面性をもつ分子構造に対して『一定間隔で捻じれ』を導入することで、理論モデルに相当する構造をもつ分子の合成に成功し、さらにホッピング伝導の効率が向上することを単分子レベルの電気伝導測定で初めて明らかとした。
研究の意義と将来展望
究極な素子の微小化に繋がる単分子エレクトロニクスの実現に向けて、この構成ユニットの役割を担う高機能な有機分子開発が不可欠である。本成果から、単分子エレクトロニクスの実現に向けた分子導線の開発のためには、“高い共役平面性”に加えて“ホッピングサイトの均質化”の指針がホッピング伝導に有効であることが明らかとなった。本研究では単分子の電気伝導特性を明らかにするために、被覆部位を導入しており、単分子エレクトロニクスに向けた分子導線としての機能が期待される。一方で、本研究で見出だされた“捻じれ”の導入は一般的な有機合成で簡便に実現できることから、有機薄膜エレクトロニクス応用に向けたπ共役ポリマー開発に適用すると、新機軸の高性能有機半導体材料開発の実現も期待できる。
担当研究者
教授 家 裕隆(産業科学研究所 ナノテクノロジーセンター ソフトナノマテリアル研究分野)
キーワード
単分子エレクトロニクス/ホッピング伝導/分子導線/π共役分子/有機半導体
応用分野
ナノテクノロジー/単分子エレクトロニクス/有機エレクトロニクス