研究 (Research)
最終更新日:
ナノサイズ細孔を持つ固体触媒を活用する『ものづくり化学』 (Synthetic organic chemistry using solid catalysts with nanosized pores)
教授 赤井 周司、助教 鹿又 喬平(薬学研究科 薬品製造化学分野) AKAI Shuji , KANOMATA Kyohei(Graduate School of Pharmaceutical Sciences)
研究の概要
我々は多孔質無機素材メソポーラスシリカの細孔(内径4 nm)の内表面にオキソバナジウムを共有結合で固定化した固体触媒V-MPS4(図1)を独自に設計・作成した。これらを用いて、いくつかの高選択的な触媒的化学変換(動的速度論的光学分割、芳香環の連結反応、アルコールの直接的求核置換)を実現した(図2)。
研究の背景と結果
これらを一挙に解決する手段として高活性な固体触媒の開発が急ピッチで進んでいる。我々は多孔質無機素材メソポーラスシリカの細孔(内径4 nm)の内表面にバナジウムを固定化した触媒V-MPS4を独自に作成し、いくつかの高選択的な触媒的化学変換を実現した。
例えば、担体に固定化された加水分解酵素リパーゼとV-MPS4を1つのフラスコ内で混合し、ラセミ体のアルコールを光学純度100%のキラル化合物に、100%変換する動的速度論的光学分割法(図2a)、カルバゾールのような含窒素芳香族化合物とフェノール類の1:1混合物を直接的に結合し、アリール化合物を合成する方法(図2b)、アルコールの水酸基を他の置換基に直接変換する求核置換法(図2c)など、多種多様な化学変換反応にV-MPS4が利用できる。
V-MPS4の活性本体であるオキソバナジウム種は、対応する可溶性のオキソバナジウム触媒と類似の化学構造を有していることを各種分析法で確認した。通常は可溶性の均一系触媒の方が不均一系触媒よりも活性が高いが、V-MPS4の場合は、均一系触媒よりも格段に反応性が高い。V-MPS4の特殊なナノサイズの細孔空間が反応を促進していると考えられ、常識を覆す興味深い結果が多数得られている。現在、反応促進のメカニズムを解明しており、今後、様々な応用展開が期待される。
研究の意義と将来展望
有機溶媒に不溶な固体触媒は触媒活性、選択性などの点で有機溶媒に可溶な均一系触媒に劣ることが多い。一方、我々が創製した固体触媒V-MPS4ではナノサイズの細孔空間内で反応が進行し、その環境特性によって均一系触媒を凌駕する高い触媒活性と官能基選択性を発現することに成功した。また、固体触媒の利点を活かし、触媒の回収再利用や、反応管に触媒を充填したフロー合成(図3)にも応用できることを確認している。
本法で合成できる有機化合物は多様であり、本法は医薬品、農薬、高機能性化学物質などの合成中間体の生産に利用できる。本法は廃棄物が少なく、変換率、原子利用効率や化学選択性・エナンチオ選択性に優れている。さらに、操作が安全かつ簡便で、スケールアップも容易であるため、今後、産業化への展開が期待できる。
担当研究者
教授 赤井 周司、助教 鹿又 喬平(薬学研究科 薬品製造化学分野)
キーワード
固体触媒/ナノサイズ多孔質無機素材/光学活性(キラル)化合物/有機合成化学,環境低負荷
応用分野
創薬/農薬/機能性化学物質