研究 (Research)
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ほ乳類性決定遺伝子Sryのゲノム構造と進化に関する研究 (Studies on the genomic structure and evolution of the mammalian sex-determining gene Sry)
教授 立花 誠(生命機能研究科 エピゲノムダイナミクス研究室) TACHIBANA Makoto(Graduate School of Frontier Biosciences)
研究の概要
ほ乳類は性決定遺伝子Sryの作用によってオス化する。1990年にSryが発見されて以降、すべてのほ乳類のSryは単一エキソン遺伝子であると信じられてきた。今回私たちは、マウスSryは“隠れた”第2エキソンを包含し、ふたつのエキソンからなる新規のSry転写産物(Sry-T)を産生することを明らかにした。Sry-Tを欠損したXYマウスはメスへと、Sry-Tを発現させたXXマウスはオスへと性転換することを見出した。既知の単一エキソンからなるSry転写産物(Sry-S)に由来するSRY-Sタンパク質は、C末端のデグロン配列のために不安定である一方で、C末端にデグロン配列が無いSRY-Tタンパク質はより安定であることを明らかにした。これらの実験結果は、SRY-SではなくSRY-Tこそが真の性決定因子であることを示した。
研究の背景と結果
オスあるいはメスへの分化(性分化)は、種の維持のみならず種の進化にも必須である。ほ乳類では、Y染色体上の遺伝子であるSryがオス化を誘導する。1990年に同定されて以降、すべてのほ乳類のSryは単一エキソンからなる遺伝子であり、ただひとつのタンパク質しかコードしないと信じられてきた。今回私たちは、性決定期のマウスの生殖腺の転写産物を包括的に解析することにより、既知のSryに隣接する領域に転写される配列があることを見出した。この配列が、既知のSryの転写開始点から転写されて一度スプライシングされる新規のSry転写産物の3 ‘部分であること、すなわちこれまで未同定だったSryの第2エキソンであることを明らかにした。既知の単一エキソン型転写産物(Sry-S)と、ふたつのエキソンからなる転写産物(Sry-T)は、それぞれ異なるふたつのタンパク質(SRY-Sと SRY-T)をコードしていた。これらのタンパク質の配列を比較すると、DNA結合ドメインおよび転写活性化に重要なポリグルタミン(poly-Q)配列を含むアミノ酸配列は共通である一方で、C末端のアミノ酸配列だけが異なっていた。生化学的な解析により、SRY-SのC末端はタンパク質分解モチーフであるデグロンを含有していた。一方でSRY-TのC末端にはデグロンが存在しないため、SRY-TはSRY-Sよりも7~8倍高いタンパク質の発現量を示すことを見出した。遺伝学的な解析により、SRY-Tを欠損したXYマウスはメスへと性転換すること、SRY-Tを異所的に発現したXXマウスはオスへと性転換することを明らかにした。これら一連の研究結果は、SRY-Sではなく、SRY-Tこそが生体内で機能する真の性決定因子であることを物語っていた。
研究の意義と将来展望
Sryが単一エキソン遺伝子であることは、ほ乳類の発生の教科書にも明記されている公然の事実であった。本研究はそれを30年ぶりに覆すことになった。私たちが発見したマウスSryの第2エキソンは、単一エキソン型Sry-SがコードするSRY-Sの不完全な機能を補うために近年になって進化したものと考えられる。今後は、ヒトを含めた様々なほ乳類のSryの真の遺伝子構造に関する研究、とりわけ第2エキソンが存在するのかについて詳細な解析が行われるだろう。
担当研究者
教授 立花 誠(生命機能研究科 エピゲノムダイナミクス研究室)
※本学ResOUのホームページ「究みのStoryZ」に、インタビュー記事が掲載されています。是非ご覧ください。
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2021/nl84_research02/
キーワード
性決定遺伝子/進化/ほ乳類/タンパク質分解
応用分野
医療・ヘルスケア/創薬/畜産