研究 (Research)

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化学発光タンパク質に基づくバイオセンサーを利用した体外検査技術の開発 (Development of in vitro testing technology using biosensors based on chemiluminescent proteins)

教授 永井 健治(産業科学研究所 生体分子機能科学研究分野) NAGAI Takeharu(SANKEN (The Institute of Scientific and Industrial Research))

  • 理工情報系 (Science, Engineering and Information Sciences)
  • 産業科学研究所 (SANKEN (The Institute of Scientific and Industrial Research))

English Information

研究の概要

高光度な化学発光タンパク質を用いて、生体物質を特異的に検出するための化学発光指示薬の開発研究を進めている。“BABI” は新生児黄疸の原因物質であるビリルビンと結合して発光色が青から緑へと変化する指示薬である (図1)。また“Thrombastor” は血液凝固の進行に重要なトロンビンの指示薬であり、トロンビンと反応して発光色が緑から青へと変化する (図2)。それぞれをマウス血液と反応させた結果、標的の濃度に応じた発光色の変化が観察された。またその発光をスマートフォンカメラにて撮影し画像を解析することで、血中での標的濃度の定量計測が可能であることを示した。

研究の背景と結果

ビリルビンはヘモグロビンの代謝物であり、ビリルビンのうち人体に有害となる成分、間接ビリルビン (Unconjugated Bilirubin, UCBR)は新生児の血液にて上昇しやすく黄疸の原因となる。さらに深刻な場合は核黄疸、難聴、および脳性麻痺などの重篤な症状を引き起こすため、重要な診断指標となっている。UCBRを検出する化学発光タンパク質指示薬BABIは、UCBRと結合するとその発光色が青から緑に変化する(図1)。その信号変化量は6700%におよび、この発光色変化をスマートフォンカメラにより撮影しその画像成分を解析することにより、マウス血液中のUCBR量を定量計測することに成功した。トロンビンは血液凝固の中心的役割を担うセリンプロテアーゼであり、過剰な活性によって血液凝固が進行し血栓が形成される確率が高まる。そのためトロンビン活性の計測は、脳梗塞や心筋梗塞、肺塞栓といった血栓症の予防に不可欠である。トロンビン活性を検出する化学発光タンパク質指示薬Thrombastorは、トロンビンにより切断されると提示される発光色が緑から青へ変化する (図2)。Thrombastorとマウスの血漿を反応させスマートフォンカメラを用いて発光色変化を撮影することで、血漿中のトロンビン活性を定量計測することに成功した。

研究の意義と将来展望

化学発光指示薬による血中成分の計測は、これまでの検出法と比較して少量のサンプルから迅速に測定結果を得ることができる。また手持ちのスマートフォンカメラなど汎用的な機器で計測が可能なため、検査の導入コストが最低限に抑えられる。現在、在宅、外来、診療所、ベッドサイドなど場所を限定しない「ポイントオブケア診断」の必要性が高まっており、その実現のためのプラットフォーム整備が急務となっている。スマートフォンの普及率およびその高い機能性を活かすことで、誰でも気軽に実施できるポイントオブケア診断法として活用されていくことが期待される。

担当研究者

教授 永井 健治(産業科学研究所 生体分子機能科学研究分野)

※本学ResOUのホームページ「究みのStoryZ」に、インタビュー記事が掲載されています。是非ご覧ください。
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2016/u8rq1b/

キーワード

発光/検査/スマートフォン/ビリルビン/トロンビン

応用分野

医療・ヘルスケア/創薬/診断

参考URL

https://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/bse/index.html

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。