研究 (Research)
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神経細胞内リボソーム機能改善による筋萎縮性側索硬化症治療薬の創出 (Development of therapeutic agents for amyotrophic lateral sclerosis by improving ribosome function)
寄附講座教授 長野 清一(医学系研究科 神経難病認知症探索治療学) NAGANO Seiichi(Graduate School of Medicine)
研究の概要
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は運動神経の障害により全身の筋力低下や筋肉の萎縮を起こす神経疾患である。大部分のALS例ではTDP-43と呼ばれるタンパク質が神経細胞内を中心に異常沈着していることが分かっているが、TDP-43が神経細胞においてどのように機能しているのか、また、TDP-43の沈着によってどのようにしてALSが引き起こされるのかは不明であった。TDP-43は、メッセンジャーRNA(mRNA)と結合する性質を持っており、数多くのmRNAと結合し細胞内での成熟や輸送に働くことが示されている。今回、我々は神経細胞がもつ突起構造である軸索に着目し、TDP-43により軸索へ輸送される重要なmRNAとして、リボソームタンパク質をコードするmRNA(リボソームタンパク質mRNA)を同定した。TDP-43が軸索にリボソームタンパク質mRNAを運ぶことで、軸索で作られるリボソームタンパク質の量を保ち、そのことが軸索で種々のタンパク質を合成するために必要なリボソームの数を維持し、神経細胞の形態や機能を保つことに繋がることを明らかにした(図1、図2)。
研究の背景と結果
我々は培養した神経細胞から軸索部分のみを採取する方法を確立し、その方法を用いてTDP-43を減少させた神経細胞の軸索で減少するmRNAをマイクロアレイ法により探索した。その結果、複数のリボソームタンパク質mRNAが、有意に減少する遺伝子群として同定された。リボソームタンパク質は、mRNAからタンパク質を翻訳するのに必須の細胞内合成装置であるリボソームを構成するタンパク質であり、リボソームによるタンパク質全体の翻訳効率に大きな影響を与えている。培養神経細胞を用いた解析により、リボソームタンパク質mRNAは軸索内でTDP-43と顆粒状に共局在すること、リボソームタンパク質mRNAとTDP-43は互いに結合すること、TDP-43の減少によりリボソームタンパク質mRNAを含む顆粒の軸索への輸送が減少することが明らかとなった。また軸索に輸送されたリボソームタンパク質mRNAは神経細胞への刺激により軸索内でリボソームタンパク質へと翻訳され、リボソームの翻訳機能の維持に重要な役割を果たすこともわかった。培養神経細胞やマウス脳内の神経細胞でTDP-43を減少させると徐々に軸索の伸長が不良となってくるが、その際同時にリボソームタンパク質mRNAを過剰に発現させたところ、軸索の伸長が改善することが確認された(図2)。さらにTDP-43の異常沈着を認めるALS患者の脳組織の運動神経軸索を調べたところ、複数のリボソームタンパク質mRNAが減少していることが見いだされた。以上よりTDP-43は神経細胞でリボソームタンパク質mRNAを軸索に輸送する働きを持ち、それにより軸索内でリボソームタンパク質を供給してリボソームによる翻訳機能を維持すること、その機能が障害されると軸索での種々のタンパク質の合成がうまくいかず軸索の伸長が阻害されること、これらの障害がALSの発症と関連していると推測されることを明らかにした(図1)。
研究の意義と将来展望
今後リボソームタンパク質mRNAの軸索への輸送やそこでの翻訳、軸索でのリボソームの機能そのものを上昇させる薬剤の同定により、新たな作用機序に基づくALSの根本的な治療法の開発が可能となる。
担当研究者
寄附講座教授 長野 清一(医学系研究科 神経難病認知症探索治療学)
キーワード
筋萎縮性側索硬化症/TDP-43/mRNA/軸索輸送/リボソームタンパク質
応用分野
医療・ヘルスケア/創薬