研究

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自己情報を自動的に優先処理する脳の仕組み

准教授 中野 珠実(生命機能研究科)

  • 医歯薬生命系
  • 生命機能研究科

研究の概要

人間は、自分の顔が表示されると、他者の顔よりも素早く、正確に反応することが知られています。この自己顔の優位効果は、意識に上らないように(サブリミナル)提示された時でも観察されるため、潜在意識レベルの脳内処理が関係しています。しかし、自己顔の優位効果を生み出す脳の仕組みはこれまで明らかになっていませんでした。そこで本研究では、サブリミナルに表示された自分の顔と他者の顔に対する脳の活動を機能的磁気共鳴画像法を用いて調べました。すると、自分の顔が表示されたことに気づいていないにも関わらず、自分の顔に対して、脳の深部にある腹側被蓋野という領域が強く活動することを発見しました。この腹側被蓋野は、ドーパミンを放出し、やる気を引き出す報酬系の中枢です。つまり、ドーパミン報酬系が働くことで、自分の顔の情報に対して自動的に注意が向き、反応が促進されるため、自己顔の優位効果が生じるのだと考えられます。

研究の背景と結果

これまで、人は自分の顔の情報に対して、自動的に注意が向いたり、素早く正確に反応する現象が知られていました。この自己顔優位効果は、意識に上った情報だけでなく、サブリミナルに情報を提示しても潜在意識レベルで生じることが報告されています。しかし、この自動的な自己顔優位効果を生み出す脳の仕組みはわかっていませんでした。そこで、自分の顔と他者の顔を短い時間表示し(25ms)、その前後に複雑な形の絵(マスク画像)を表示することで、顔の情報が意識に上らない状態にして(サブリミナル刺激法)、自分の顔と他者の顔に対する脳活動の違いを機能的磁気共鳴画像法で調べました。その結果、被験者は自分の顔が表示されたことに気づいていないにも関わらず、脳の深部にある腹側被蓋野という場所が、自分の顔に対して強く賦活することを発見しました。これは、自分の顔の情報が入ると、意欲ややる気を引き起こすドーパミンの報酬系の中枢が自動的に活性化し、その結果、自分の顔に対する注意が高まり、情報処理が優先されることを示唆しています。さらに、写真の加工により表示する顔の目やあごの大きさを変えても、自分の顔に対する腹側被蓋野の活動は高いままでした。このことから、潜在意識レベルでは、顔のバランスではなく、目や鼻など顔のパーツの形に基づいて、自分と他者の顔を見分けていることがわかりました。
本研究により、非常に短い提示時間でも、人間の脳は自分の顔と他者の顔を自動的に弁別し、自分の情報に対してドーパミン報酬系を活性化させることが世界で初めて明らかになりました。

図1 顔のサブリミナル刺激提示法
図2 自己顔に対して活動を増やした脳領域(腹側被蓋野)

研究の意義と将来展望

自分の顔をサブリミナルに表示するだけでドーパミン報酬系が活動するという発見は、自己意識を生み出す神経機構の解明につながるだけでなく、潜在意識に働きかけて意欲を操作するなどの応用も期待されます。

担当研究者

准教授 中野 珠実(生命機能研究科)

※本学ResOUのホームページ「究みのStoryZ」に、インタビュー記事が掲載されています。是非ご覧ください。
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2014/201409_01/

キーワード

自己優先効果/ドーパミン/腹側被蓋野/顔認知/自己意識

応用分野

情報システム/AI/神経科学

参考URL

https://kitazawa-lab.jp/

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。