研究

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体内時計をもとに季節を読み取る脳内神経機構の解析

助教 長谷部 政治(理学研究科 生物科学専攻)

  • 理工情報系
  • 理学研究科・理学部

研究の概要

多くの動物は1日の日が出ている長さ(日長)の変化から季節を読み取り、体内の生理状態や行動を適切に調節しています。この日長の読み取りには、約24時間周期のリズムを作り出す体内時計:概日時計が重要な役割を果たしていることが示唆されてきました。一方で、生理状態や行動を制御する中枢である脳神経系において、細胞レベルで日長変化にどのように応答し、その細胞レベルでの日長応答に概日時計がどのように寄与しているのかについては分かっていませんでした。私たちは生殖制御に明瞭な日長応答が見られるホソヘリカメムシを用いることで、脳内の産卵促進ニューロンの自発的な神経活動が日長に応じて明瞭に変化することを発見しました。更に、概日時計遺伝子の発現を抑制することで、その神経活動レベルでの日長応答が消失することも明らかにしました。

研究の背景と結果

四季がある温帯地域に生息する生物は、季節に応じて生殖機能や体内の栄養蓄積、温度耐性などを調節することで、季節環境変化に適応しています。多くの生物は1日の日長の変化から季節を読み取っています。この日長の読み取りには、体内で約24時間周期のリズムを刻む生物時計である概日時計が重要な役割を果たしていると考えられています。
1936年に植物生理学者のエルヴィン・ビュニングにより概日リズムに基づいた日長測定のモデルが提唱されてから、長年に渡り概日時計に基づいた日長測定機構の解析が進められてきました。近年、遺伝子操作技術を用いた研究により、概日時計遺伝子が生殖機能などの日長応答に重要であることが実証されてきました。しかし、生殖機能などを制御する脳中枢において、細胞レベルで日長にどのように応答し、その細胞応答に概日時計遺伝子がどのように寄与しているのかについて不明でした。
今回、生殖機能に明瞭な日長応答が見られるホソヘリカメムシを用いて、この点について解析を行いました。神経活動を測定する電気生理学的手法:パッチクランプ法を用いた解析により、脳間部の大型神経細胞が日長に応じてその神経活動を劇的に変化させることを明らかにしました。更に、遺伝子発現を抑制するRNA 干渉法という技術を組み合わせた解析を行い、この脳間部大型神経細胞の日長応答が、概日時計遺伝子の発現を抑制することで消失することが分かりました。最後に、分子遺伝学的な手法を用いて脳間部神経細胞の生理的役割を解析したところ、脳間部の大型神経細胞は産卵促進に寄与する複数の神経ペプチドを発現していることが分かりました。本研究成果により、産卵促進に寄与する大型神経細胞において神経活動レベルで日長応答が見られ、その細胞レベルでの日長応答に概日時計遺伝子が必要不可欠であることが明らかになりました。

研究の意義と将来展望

体内時計を用いた日長応答は、様々な生物の季節適応に重要であることが示唆されています。私たちは細胞レベルでの解析技術と遺伝子操作技術を組み合わせることで、脳神経系の細胞レベルでの日長応答に概日時計遺伝子が重要であることを初めて実証することに成功しました。今後、本研究で用いた解析手法が様々な動物種で応用されることで、動物種全般における概日時計に基づいた季節応答機構の全貌が明らかになっていくことが期待されます。

担当研究者

助教 長谷部 政治(理学研究科 生物科学専攻)

キーワード

季節応答/体内時計/脳/神経活動/遺伝子操作

応用分野

生物多様性保全/医療・ヘルスケア

参考URL

https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210224_1

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。