研究

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合成アルカリゲネス菌リピドAの優れたアジュバント作用を利用した有効性・安全性の高い次世代ワクチンの開発

教授 深瀬 浩一、助教 下山 敦史、招へい教授 國澤 純(理学研究科 化学専攻)

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  • 理学研究科・理学部

研究の概要

アジュバントとは、ワクチンの効果を高めるために、ワクチンと共に投与される物質である。本研究では、粘膜免疫と全身性免疫の両方を効果的に活性化するアジュバントとして、小腸粘膜組織のリンパ節であるパイエル板に共生するアルカリゲネス菌由来の糖脂質リピドAを開発した。安定供給と品質管理のために、化学合成によるリピドAアジュバントの製造法を開発し、合成リピドAアジュバントが適度な免疫活性化能を有し、粘膜免疫と全身性免疫を効果的に活性化すること、このアジュバントを含む経鼻ワクチンは、マウスモデルで病原体に対して優れた防御効果を有することを示した。

研究の背景と結果

新型コロナウイルス感染症の発生により、感染症対策としてのワクチンの重要性が改めて認識されている中、今後の新興・再興感染症の対策において、安全性と有効性を兼ね備えたワクチン開発を進めることが急務となっている。そのためには、ワクチンの効果を最適化できる優れたアジュバントの開発が必要である。これまで、ワクチンアジュバントとしてはアルミニウム塩が汎用されてきたが、21世紀になってGSK社により、細菌由来糖脂質であるリピドAを無毒化したモノリン酸化リピドAが優れたアジュバントとして開発され、ヒトパピローマウイルスに対するワクチン(子宮頸癌予防ワクチン)などに利用されている。一方、病原体の侵入口である粘膜の免疫を効果的に高める粘膜ワクチンの開発が求められている。粘膜ワクチンは、粘膜表面での感染侵入の防止と全身免疫による防御の両方を誘導することができる。しかし、効果的でかつ安全性の高い粘膜ワクチンのアジュバントは未開拓であった。大阪大学と国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所ワクチン・アジュバント研究センターの國澤純センター長、東京大学の清野宏特任教授の研究グループは、ヒトやマウスの腸管関連リンパ組織の内部に共生し、過剰な炎症を誘導することなく適度な免疫活性化を行うアルカリゲネス菌(Alcaligenes faecalis)に着目した。有効な菌体成分であるリピドAをアルカリゲネス菌から取り出して、その構造を決定し、さらに化学合成法を確立してアジュバントとして用いた際の免疫系に対する作用を調べた。その結果、本リピドAアジュバントは、注射型ワクチンだけでなく粘膜免疫の誘導が可能な経鼻型ワクチンにおいても、炎症などの副反応をほとんど起こさずにワクチン抗原に対する免疫応答を効果的に高めることが示され、病原体抗原と本アジュバントからなる経鼻ワクチンは、マウスモデルで病原体に対して優れた防御効果を示した。

研究の意義と将来展望

抗原のみでは効果的に免疫を獲得できないため、ワクチンの効力を高めるためにアジュバントの添加が必要であるが、有効性と安全性を兼ね備えたアジュバント開発は簡単ではない。そこで身体の中で共生する細菌由来の分子は宿主の免疫系を適度に制御するというアイデアの基に、アルカリゲネス菌リピドAを新規アジュバントとして開発した。化学合成アルカリゲネス菌リピドAは、粘膜免疫と全身免疫を効果的に高め、注射型ワクチン、経鼻ワクチンあるいは経口ワクチンなどの様々なタイプのワクチンに使用可能であるとともに、炎症などの副反応が少なく、安全性に優れているという特徴を有しており、今後様々なワクチン開発への応用が期待される。

担当研究者

教授 深瀬 浩一、助教 下山 敦史、招へい教授 國澤 純(理学研究科 化学専攻)

※本学ResOUのホームページ「究みのStoryZ」に、インタビュー記事が掲載されています。是非ご覧ください。
深瀬 浩一
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2017/g004362/
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2017/g004361/

キーワード

アジュバント/ワクチン/粘膜/免疫/抗原

応用分野

医療・ヘルスケア/ワクチン

参考URL

https://www.nibiohn.go.jp/information/nibio/2021/09/007301.html
https://www.sci.osaka-u.ac.jp/ja/wp-content/uploads/2021/09/PRfukase_rev.pdf
https://www.juntendo.ac.jp/graduate/laboratory/labo/seikagaku_seitaibogyo/jeiis/pdf/No20/No20-1.pdf
https://www.peptide.co.jp/new-product/4369.html

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。