研究

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長期療養施設における患者の状態推定のためのICT の活用と最適ケアの構築

准教授 山川 みやえ、准教授 内海 桃絵(医学系研究科 保健学専攻 看護実践開発科学講座(地域包括ケア学・老年看護学研究室))

  • 医歯薬生命系
  • 医学系研究科・医学部(保健学専攻)

研究の概要

長期療養施設における患者の生活の質を向上させるために、より良いケアを模索し続けることは人生の最期を納得して迎えるためには不可欠である。しかし、寝たきりが多く、認知機能が低下している人たちがどのような状態であるのかは、患者の訴えを直接聞くことができない。そのため、少しでも患者の状態推定ができるようにICT 活用した。そこから生み出される最適なケアを構築するために、長期療養の医療機関、福祉施設を対象に患者の状態を非接触の睡眠センサーを活用して推定した。具体的には、回復期リハビリテーション病棟の患者や特別養護老人ホームの入所者の睡眠特性を継続的に測定し、睡眠と関連のある因子(排便状況など)を特定した。

研究の背景と結果

睡眠との関連因子については、入院患者の睡眠特性を説明し、毎日の睡眠パラメータと毎日の環境および主観的データの関係を横断研究デザインを用いて明らかにした。慢性期病院の中にある2つの回復期リハビリテーション病棟の入院患者に対し、非装着型のアクティグラフィーを使用して、人口統計学的、環境的、および毎日の臨床的要因が14日間の睡眠効果に及ぼす影響を測定した。 照度レベル、ノイズ、排泄、および患者の主観的な気分とストレスは、環境センサーによって測定した。 睡眠データは、患者のベッドに取り付けられた睡眠モニターを使用して収集した。 76人の参加者からの1,008件のレコードに対して行われた。高齢で、女性であり、定期的に睡眠薬を服用し、夜間排尿を頻繁に行い、脳卒中後であることは、睡眠効率の悪さの重要な予測因子であった。環境要因は睡眠の有効性に影響はなかった。新たに入院した患者はより良い睡眠効果を報告した(年齢、β = -0.38、p<0.001; 性別[ 女性]、β = -0.17、p <0.05; 新しい入院[ いいえ]、β =- -0.30、p <0.001; 主なICD-10疾患[ 脳卒中]、β = -0.26、p <0.001; 通常の睡眠薬処方[ いいえ] β = 0.28、p <0.001; 夜間の排尿の頻度、β = -0.24、p <0.01)。排泄については、特別養護老人ホームに入居しており、同意の得た高齢者28名を対象にし、2018年7月~2019年5月にデータを収集した。睡眠データは睡眠時間[ 分]、睡眠潜時[ 分]、睡眠効率[ % ]、中途覚醒時間[ 分] であり、患者日で集計した。看護記録、介護記録より年齢、性別、排便の有無、便の量について収集した。対象者の平均年齢は81.4±10.8歳であった。性別は男性が14名(50%)であった。総患者日は447日で平均モニタリング日数は15.9±5.0日であった。睡眠潜時について女性よりも男性のほうが優位に長くなり(p<0.05)、睡眠効率も女性のほうが優位に高かった。年齢についても高齢になればなるほど睡眠潜時が優位に長かった。最終排便から経過した日数について、睡眠効率、中途覚醒時間のいずれも有意に差を認め、排便がない日が長く続くほど、中途覚醒時間が長くなり、睡眠効率が低下した。排便の有無についてはどの睡眠データとも有意差を示さなかった。

研究の意義と将来展望

夜間の排尿と睡眠薬を管理して睡眠効果を改善することの重要性を示した。年齢、性別により睡眠の特徴が示唆された。排便がなく日数が経過することにより、中途覚醒時間が長くなり、睡眠効率が低下している可能性がある。高齢者は生理的機能の低下から便秘になりやすいため適切なケアで排便を促すことで睡眠の質が上がる可能性が示唆される。非装着型睡眠デバイスは、高齢の入院患者の睡眠関連要因の測定に役立ち、コミュニケーションが困難な患者にも使用できると考えられる。このタイプの睡眠測定技術は、睡眠の質を監視および管理するための高齢者のリハビリテーションケアに役立つ可能性がある。

担当研究者

准教授 山川 みやえ、准教授 内海 桃絵(医学系研究科 保健学専攻 看護実践開発科学講座(地域包括ケア学・老年看護学研究室))

キーワード

長期療養/ICT/最適ケア

応用分野

スマートシティ/高齢者医療・福祉

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。