研究 (Research)

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前頭側頭型認知症における異常伸長RNA蓄積病態の解明と新規治療法開発 (Elucidation of the mechanism of abnormally expanded repeat RNA accumulation and development of novel therapeutic strategies thereof in frontotemporal dementia)

講師 森 康治、教授 池田 学(医学系研究科 精神医学) MORI Kohji, IKEDA Manabu((Graduate School of Medicine))

  • 医歯薬生命系 (Medical, Dental, Pharmaceutical and Life Sciences)
  • 医学系研究科・医学部(医学専攻) (Graduate School of Medicine, Faculty of Medicine (Division of Medicine))

English Information

研究の概要

前頭側頭型認知症(前頭側頭葉変性症)は前頭葉や側頭葉を中心とした神経変性により、行動異常、性格変化、失語症などがみられ、しばしば若年性認知症の原因ともなります。C9orf72 遺伝子の異常伸長リピートは前頭側頭型認知症および筋萎縮性側索硬化症の代表的な遺伝的原因の一つです。本研究ではこの異常伸長リピートに由来するリピートRNAがRNAエクソソームとよばれるRNA分解酵素複合体により分解されていることを明らかにしました。さらにリピートRNAから特殊な機序で産生(翻訳)されるリピートタンパク質がRNAエクソソームの活性を押さえ込むことで、リピートRNAの蓄積が加速することも示しました。

研究の背景と結果

遺伝子において同じ塩基配列が繰り返して続くものをリピート(反復配列)と呼びます。今回注目した C9orf72 (chromosome 9 open reading frame 72)遺伝子のイントロンにおける異常伸長リピートではGGGGCCという6塩基モチーフが概ね数百回以上繰り返されており、このリピートが前頭側頭型認知症(前頭側頭葉変性症)と筋萎縮性側索硬化症という2つの難病を引き起こすとされています。またこの遺伝子変異持つ人は前頭側頭型認知症や筋萎縮性側索硬化症と診断されるよりも前の時期に統合失調症や気分障害と区別できないような精神症状を呈する人が多いことも知られています。
異常に伸長したDNAリピート配列は、リピートRNAへと転写され、しばしば細胞核内でRNA凝集体を形成します。また森助教らは以前にC9orf72のリピートRNAが開始コドン非依存性の非定型的な翻訳を受けてリピート蛋白質を産生して神経細胞内に蓄積することを明らかにしています。これまで患者さん由来の C9orf72 変異細胞では、異常伸長リピートRNAが蓄積していることがわかっていましたが、細胞内で異常伸長リピートRNAがどのような機序で分解されているのか、またどのように分解を免れて細胞内に蓄積しているのかは明らかでありませんでした。

研究の意義と将来展望

RNA分解異常によるリピートRNAの細胞内蓄積(図1)により、毒性が高いリピート蛋白質の産生量が増大し、ひいては神経細胞死へと繋がると考えられます。RNAエクソソームの障害は、橋小脳低形成と呼ばれる別の神経系疾患を引き起こすことから、リピート蛋白質によるRNAエクソソームの障害自体が病態に影響を及ぼしている可能性も考えられます。我々の研究グループではリピートRNA代謝を促進したり、リピート蛋白質への翻訳を阻害したりすることによる前頭側頭型認知症の新規治療法の開発を目指して研究を続けています。

図1

担当研究者

講師 森 康治、教授 池田 学(医学系研究科 精神医学)

キーワード

前頭側頭型認知症/前頭側頭葉変性症/RNA/RAN翻訳

応用分野

医療・ヘルスケア/創薬

参考URL

https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2020/20200827_2
https://www.med.osaka-u.ac.jp/activities/results/2020year/mori-20200827
http://first.lifesciencedb.jp/archives/6559

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。