研究 (Research)

最終更新日:

ヒト腸管オルガノイドを用いた医薬品開発プラットフォーム (Monolayer platform using human biopsy-derived small intestinal organoids for pharmaceutical research)

教授 水口 裕之(薬学研究科 分子生物学分野) MIZUGUCHI Hiroyuki(Graduate School of Pharmaceutical Sciences)

  • 医歯薬生命系 (Medical, Dental, Pharmaceutical and Life Sciences)
  • 薬学研究科・薬学部 (Graduate School of Pharmaceutical Sciences, School of Pharmaceutical Sciences)

English Information

研究の概要

経口投与医薬品は最初に腸管において吸収・代謝・排泄を受けますが、こうした一連の反応は医薬品の体内動態に大きな影響を及ぼすことが知られています。そのため、創薬研究の前臨床段階において、医薬品候補化合物の吸収・代謝・排泄を試験管内で評価し、体内でのふるまいを予測した上で、投与量等を策定することが不可欠です。
これまで、そうした予測にはがん細胞株や実験動物等が用いられてきましたが、機能不足や種差が原因で正確な予測が困難であるとされてきました。我々は、ヒト小腸(十二指腸)組織から回収した組織片からオルガノイド(ヒト組織由来腸管オルガノイド)を作成し、本オルガノイドを単層膜化した上で世界で初めて薬物動態評価系に応用しました。その結果、従来系より高い機能や生体類似性を示しました。

図1.本研究の概要

研究の背景と結果

錠剤やカプセル剤などの経口投与医薬品は、腸管(小腸)で吸収されると同時に代謝・排泄されます。そのため、医薬品候補化合物の腸管における吸収・代謝・排泄の程度を評価することは、創薬研究において重要な検討項目です。現在、ヒト生体由来小腸上皮細胞はその入手、および長期に渡る培養が困難であるため、Caco-2細胞などのがん細胞株や、マウス、ラットなどの実験動物を用いて、医薬品候補化合物の腸管における吸収・代謝・排泄を評価しています。しかし、がん細胞株では薬物代謝能が低いこと、実験動物ではヒトとの種差があること等が原因で、正確に医薬品候補化合物の吸収・代謝・排泄を評価・予測することは困難とされてきました。
近年、ヒト組織由来腸管オルガノイドが疾患基礎研究や発生学的研究、生理学的研究において広く応用されており、基盤技術として生物学医学関連の各分野に大きなインパクトを与えています。しかしながら、これまで生検由来ヒト腸管オルガノイドを薬物動態評価系として応用し、その機能や実装の可能性を詳細に評価した研究はありませんでした。
我々は、ヒト十二指腸サンプルから作成したヒト腸管オルガノイド(図2A)を単層膜化することで(図2B, オルガノイド単層膜)、各種薬物動態学的評価への汎用性を高めた上で、その機能等を評価しました。その結果、オルガノイド単層膜は微絨毛構造(図2C白矢印)やタイトジャンクション構造(図2C黒矢印)といった、生体の腸管にも見られる特徴が観察されました。また、腸管に発現する主要な薬物代謝酵素であるCYP3A4やCES2の遺伝子発現レベルは成人十二指腸と同程度であり(図2D)、その活性はCaco-2細胞と比較して非常に高いことが分かりました。さらに、遺伝子発現全体の傾向を解析したところ、オルガノイド単層膜は成人十二指腸に近い性質を有していることが示唆されました。こうした結果により、オルガノイド単層膜は従来系と比較して十分高い機能を有していることに加え、ヒト生体に近い性質を保持していると考えられます。以上のことから、今後、オルガノイド単層膜を使用した医薬品の吸収・代謝・排泄試験が加速していくことが期待されます。

図2.ヒト組織由来腸管オルガノイドの特徴

研究の意義と将来展望

ヒト組織由来腸管オルガノイドから作製された単層膜(オルガノイド単層膜)は、次世代型の薬物動態評価系として有用であり、従来系と比べて体内動態予測精度が向上することにより、医薬品の安全で効率的な開発を加速することが期待されます。

担当研究者

教授 水口 裕之(薬学研究科 分子生物学分野)

※本学ResOUのホームページ「究みのStoryZ」に、インタビュー記事が掲載されています。是非ご覧ください。
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2012/121201_1/

キーワード

小腸/薬物動態/オルガノイド

応用分野

医療・ヘルスケア/創薬

参考URL

https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210520_2

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。