研究

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迅速・簡便な新型コロナウイルス人工合成技術を開発

特任教授 松浦 善治、特任准教授 小野 慎子(感染症総合教育研究拠点・微生物病研究所)

  • 医歯薬生命系
  • 微生物病研究所

研究の概要

◆PCR法を活用した感染性ウイルスの作出技術「CPER法※1」を用いて、新型コロナウイルスの人工合成に成功。
◆これまでのコロナウイルスの人工合成は、複雑な遺伝子組操作技術と作製に数ヶ月間を要するという問題があったが、本方法ではわずか2週間で新型コロナウイルスを作製可能。
◆CPER法を用いればウイルスの遺伝子改変も容易であることから、世界各地で次々と確認されている変異ウイルスに対しても迅速に対応し解析することが可能。
◆本技術で新型コロナウイルスを迅速に合成することで、感染機構や変異ウイルスの病原性の解析、そして治療法や予防法の開発の加速につながることが期待。

研究の背景と結果

ウイルス研究では、ウイルスの遺伝子配列情報をもとに人工的にウイルスを合成する技術が確立され、治療法や予防法の開発に役立てられています。コロナウイルスでも、SARSウイルスやMERSウイルスの人工合成技術が開発されていますが、複雑かつ高度な遺伝子操作技術と数ヶ月もの期間が必要であり、限られた研究者しかコロナウイルスを人工合成できないという問題がありました。しかし、次々と現れる変異ウイルスに対応し、かつ病原性の解明や治療法・予防法の開発を行うためには、迅速かつ簡便に感染性ウイルスを作出する技術の開発が求められていました。
そこで本研究では、任意の遺伝子変異を素早く簡便に導入できる新型コロナウイルス人工合成技術を確立するため、PCRを利用した方法の開発に取り組みました。
まず、新型コロナウイルスの遺伝子全長をカバーする9個のウイルス遺伝子断片とプロモーターを含むリンカー断片をPCRで増幅しました(図のステップ1)。各断片が隣り合う断片と重なる領域を持つよう設計することで、もう一度PCRを行うと、10個の断片が一つに繋がり、ウイルス遺伝子全長をコードする環状のDNAを作製できることがわかりました(図のステップ2)。この環状DNAを新型コロナウイルスがよく増殖する培養細胞に導入すると、細胞の中でDNAをもとにRNAが合成され、さらにこのRNAをもとにウイルスが合成されて、約7日間で感染性の新型コロナウイルスを作出することができました (図のステップ3)。すなわちCPER法を用いることで、高度な遺伝子操作技術を用いずに、PCRのみで新型コロナウイルスの感染性DNAクローンを作製できることが分かりました。さらに、GFPなどの蛍光タンパク質を導入したウイルス※2や、任意の遺伝子を変異させたウイルスも作出可能であることを示しました。

研究の意義と将来展望

本技術により、従来数ヶ月かかっていたウイルスの合成が大幅に短縮されることで新型コロナウイルスの研究開発が加速化するとともに、世界中で出現する様々な変異を持つ新型コロナウイルスに対しても迅速に解析することが可能となります。また、人工的に外来遺伝子を組み込むなど遺伝子操作をしたウイルスを用いた研究は病原性解析や予防法・治療法の開発にも応用できることから、本技術は今後新型コロナウイルス研究において中心的な役割を担うと期待されます。

担当研究者

特任教授 松浦 善治、特任准教授 小野 慎子(感染症総合教育研究拠点・微生物病研究所)

※本学ResOUのホームページ「究みのStoryZ」に、インタビュー記事が掲載されています。是非ご覧ください。
松浦 善治
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2020/c6gk8t/

キーワード

新型コロナウイルス/CPER法/PCR

応用分野

感染症

参考URL

http://www.biken.osaka-u.ac.jp/achievement/research/2021/152

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。