研究 (Research)

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皮膚筋炎の発症メカニズム (Pathogenesis of dermatomyositis)

教授 藤本 学(医学系研究科 皮膚科学) FUJIMOTO Manabu(Graduate School of Medicine)

  • 医歯薬生命系 (Medical, Dental, Pharmaceutical and Life Sciences)
  • 医学系研究科・医学部(医学専攻) (Graduate School of Medicine, Faculty of Medicine (Division of Medicine))

English Information

研究の概要

膠原病の代表的な疾患である皮膚筋炎は自己免疫が発症に関わっていると考えられており、transcriptional intermediary factor 1- γ(TIF1- γ)に対する自己抗体が約20% の例で陽性になります。本研究では、ヒトTIF1- γタンパクを免疫して筋炎を発症させるマウスモデルを樹立しました。この新規動物モデルはヒト皮膚筋炎の病態に類似していると考えられ、発症メカニズムの解明や新規治療薬の開発やスクリーニングなど創薬にも有用であることが期待されます。

研究の背景と結果

膠原病は全身性の自己免疫疾患に分類され、生命をも脅かす難病ですが、関節リウマチを除いては病態に特異的な治療法はいまだに開発されていません。皮膚筋炎・多発性筋炎は、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症と並んで膠原病の4大疾患の一つであり、筋肉の炎症による筋力低下と特徴的な皮膚病変を呈しますが、その病態の解明は遅れています。その理由として、適切な疾患モデル動物が存在しないことが挙げられます。皮膚筋炎は近年疾患特異的な自己抗体が発見され、臨床病型に非常に密接に相関することから合併症や治療反応性の予測に有用なバイオマーカーとして活用されているのみならず、病因を解き明かすカギになる可能性も考えられていました。そのような主要な特異抗体の一つに、抗TIF1- γ抗体があります。本研究ではTIF1- γタンパクの免疫により筋炎を発症するマウスモデルを樹立しました。バキュロウイルスによる合成系を用いて哺乳類に近い翻訳後修飾をもつヒトTIF1γ全長タンパクを作成・精製し、アジュバントとともにマウスに繰り返し皮下投与を行いました。その結果、大腿筋に筋炎が発症することを見いだしました。病理組織学的にも、筋線維周囲にCD8陽性T 細胞を中心とした炎症細胞が浸潤し、線維束周囲性萎縮というヒト皮膚筋炎に典型的な像も呈していました。筋炎が誘導されたマウスからCD8陽性T 細胞を採取して、未発症のマウスに移入すると筋炎を誘発できることから、CD8陽性T 細胞がこの筋炎モデルにおいて中心的な病的役割を持っていると考えられました。ヒト皮膚筋炎においてはI 型インターフェロンが病態に強く関与していると推測されていますが、本モデルにおいてもI 型インターフェロン受容体欠損マウスでは筋炎の軽症化が認められました。また、I 型インターフェロンをはじめとするサイトカインシグナルを遮断する働きのあるヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬を投与すると、筋炎の発症が抑制されました。

研究の意義と将来展望

本筋炎マウスモデルは、実際のヒトの疾患で明らかになっている自己抗原の免疫によって発症を誘導できることで、ヒトの病態に即した系として実際のヒト皮膚筋炎の発症メカニズムの解明や治療薬の開発・評価につながることが期待されます。抗TIF1- γ抗体が陽性になる皮膚筋炎は、しばしば悪性腫瘍を合併することが知られており、腫瘍抑制遺伝子の働きをもつTIF1- γ遺伝子の変異が悪性腫瘍に生じると自己免疫応答を誘導する可能性が示唆されています。本研究においてTIF1- γに対する免疫応答が筋炎を実際に発症させることが実証されたため、悪性腫瘍合併皮膚筋炎を一つのモデルとして、膠原病の病院から発症までの一連の流れを包括的に説明できることにもなり、今後の膠原病の発症機序解明に向けて大きな意義をもつものと考えられます。

担当研究者

教授 藤本 学(医学系研究科 皮膚科学)

※本学ResOUのホームページ「究みのStoryZ」に、インタビュー記事が掲載されています。是非ご覧ください。
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2015/201506_04/

キーワード

膠原病/皮膚筋炎/自己免疫

応用分野

医療/創薬

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。