研究

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不妊治療・避妊薬開発をめざす不妊モデルマウス開発と標的因子探索

教授 伊川 正人(微生物病研究所 遺伝情報実験センター 遺伝子機能解析分野)

  • 医歯薬生命系
  • 微生物病研究所

研究の概要

我々の研究室では、雄性不妊原因の究明と男性避妊薬開発を目指して研究を進めています。具体的には、最新のゲノム編集技術を用いて精巣特異的に発現する遺伝子群を標的に遺伝子破壊 (KO) マウスを作製し、表現型を解析します。雄性不妊が認められた場合には、その分子メカニズムを解明するとともに、臨床研究者と協力し、ヒト不妊症との関連を調べています。また、精子形成・精子機能を司る因子に対しては、米国ベイラー医科大学と共同して、DNAエンコード小分子をスクリーニングすることにより、非ホルモン男性避妊薬の開発を目指しています。

研究の背景と結果

哺乳類では、タンパク質をコードする遺伝子が2万数千と言われますが、精巣で特異的もしくは多く発現する遺伝子は、約1,000あると言われています。私達は、CRISPR/Cas9によるゲノム編集法を用いて、KO マウスを作製し、交配試験を行った結果、精巣特異的に発現する321遺伝子のうち、93遺伝子が雄の妊孕性に必須であることを示しました。例えば、2015年には、精子特異的に存在するカルシニューリンが精子の運動能力獲得に必須であること、さらにその阻害剤が一時的な雄性不妊を誘導できることを示しました。2020年には、精巣で作られた NELL2因子が、管腔を通って隣の組織 ( 精子成熟を司る精巣上体 )の分化を制御することを示しました。また GWAS 解析によりヒト男性不妊との関連を調べ、DNAH8を欠損するヒトは、マウスと同様に精子鞭毛異常により不妊となることを示しました。その他、ARMC12を欠損すると精子ミトコンドリア鞘の形成不全となること、また精子と卵の融合に必須な因子として、IZUMO1、FIMP、SOF1、TMEM95、SPACA6、DCST1/2などを見つけています。現在は、米国ベイラー医科大学と共同して、これらの必須因子に結合する DNA エンコード小分子のスクリーニングを通じて、男性避妊薬の開発を目指しています。

研究の意義と将来展望

家族計画には女性だけでなく男性の協力も必要ですが、現在、市場されている避妊薬は女性を対象としたものしかありません。また、約6組に1組が不妊に悩む一方、妊娠の約4割は予期せぬ妊娠であったと言われます。安全・安心な生殖の制御を通じて、ジェンダー平等、すべての人に健康と福祉を提供する社会に繋げたいと考えています。また、畜産動物の効率的繁殖などへの応用は飢餓のない社会に貢献し、希少動物の保全にも役立つことが期待されます。

担当研究者

教授 伊川 正人(微生物病研究所 遺伝情報実験センター 遺伝子機能解析分野)

キーワード

ゲノム編集/生殖医療/家族計画

応用分野

医療・ヘルスケア/創薬/畜産

参考URL

https://egr.biken.osaka-u.ac.jp/

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。