研究

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オートファジー研究に基づいた糖尿病性腎臓病の治療戦略

教授 猪阪 善隆、特任助教 山本 毅士(医学系研究科 腎臓内科学)

  • 医歯薬生命系
  • 医学系研究科・医学部(医学専攻)

研究の概要

オートファジーは細胞質成分の品質管理やエネルギー状態の最適化を介して細胞の恒常性を維持しています。オートファジーを臨床に応用するためには、生体における活性を正しく把握することが必要です。本研究では1型および2型糖尿病性腎症のオートファジー活性を解析しました。その結果、1型糖尿病は高血糖・低インスリン血症によりオートファジーを亢進させて腎臓を保護しようとしますが、このようなオートファジーが亢進した状態が続くと、リソソームの負担となり、オートファジーが停滞してしまいます。一方、2型糖尿病は高インスリン血症により細胞がストレスにさらされても、オートファジーが抑制されているために障害がおこりやすいことが判明しました。糖尿病性腎臓病の予防と治療においては、オートファジーの状態を考慮して、その調節を行うことが重要であると考えられました。

研究の背景と結果

現在、わが国の透析患者は34万人を超え、その原疾患の第一位は20年にわたり糖尿病性腎症です。飢餓やストレスに対するオートファジーの活性化とその保護作用はよく知られていますが、高血糖がオートファジー活性に与える影響については一定の見解がありません。われわれは、ストレプトゾトシン誘発性1型糖尿病モデル(STZマウス)および自然発症肥満2型糖尿病モデル(db/dbマウス)を用い、高血糖下でのオートファジー活性の相違と病態への関与を検討しました。STZマウスでは、本来オートファジーが抑制される自由摂取下でもオートファジーが亢進しているのに対し、db/dbマウスでは本来オートファジー誘導される絶食時でもオートファジーが抑制されていました。飢餓によるオートファジー誘導は、インスリンにより抑制されるが、高グルコースでは抑制されませんでした。インスリンによるオートファジー抑制はmTOR経路の亢進を伴っていました。さらに近位尿細管特異的オートファジー不全STZマウスとdb/dbマウスでは、細胞腫大・尿蛋白・蛋白凝集塊蓄積に相違を認めました。1型・2型糖尿病でのオートファジー活性の違いが、オートファジーを亢進させる薬剤であるラパマイシンの効果に影響するか、比較検討しました。腎虚血再灌流を1型・2型糖尿病マウスに施し、ラパマイシン投与の有無での腎傷害をみたところ、db/dbマウスでは、ラパマイシンにより虚血再灌流による傷害が緩和されましたが、STZマウスでは傷害が増悪しました。以上より、1型糖尿病は高血糖・低インスリンによりオートファジー活性が平常時でも亢進しており、糖毒性に対し保護的に作用していますが、ラパマイシンによりさらにオートファジーを亢進させても、オートファジーの下流のリソソームの負担となりオートファジーが停滞して、かえって病態が悪化します。一方、2型糖尿病は高インスリン血症によりオートファジー誘導が必要なストレス時においても抑制されている病態であることが判明しました。糖尿病性腎症の予防と治療においては、両者のオートファジーの挙動の相違を考慮してその調節を行うことが重要であると考えられました。

研究の意義と将来展望

様々な腎疾患では、オートファジーを亢進させて腎臓を保護しようとするものの、オートファジーの調整がうまく作用せず、病態進行に悪影響を与えていること、また単なるオートファジーを亢進させるような薬剤だけでは解決しないこともわかってきました。しかし各腎疾患におけるオートファジーの状態を深く理解することにより、オートファジー研究がヒトの腎疾患治療に応用でき、ひいては透析を必要とする末期腎不全を抑制できる日が来るものと確信しております。

担当研究者

教授 猪阪 善隆、特任助教 山本 毅士(医学系研究科 腎臓内科学)

キーワード

糖尿病性腎症(糖尿病性腎臓病)/オートファジー活性/オートファジー停滞/インスリン/リソソーム

応用分野

医療・ヘルスケア/創薬

参考URL

大阪大学腎臓内科ホームページ
https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/kid/kid/index.html

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。