研究

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DNA 二本鎖切断修復方法の選択メカニズムの解明

教授 磯部 真也、教授 小布施 力史(理学研究科 生物科学専攻)

  • 理工情報系
  • 理学研究科・理学部

研究の概要

DNA 二本鎖切断は重篤なDNA 損傷であり、その修復機構の破綻はある種のがんなど、疾患の原因になることが知られています。切断されたDNA は、切断末端をそのままつなぐ「非相同末端結合」あるいは「相同組換え」の主に2つの経路で修復されることが知られており、どちらの経路を選択するかは細胞周期により制御されていると考えられてきました。私たちは、新規タンパク質SCAI を見出し、DNA 二重鎖切断の修復の経路選択に重要な役割を果たす53BP1と結合することを突き止めました。このSCAI と53BP1との相互作用を手掛かりに解析を進めたところ、細胞周期にかかわらず「非相同末端結合」および「相同組換え」両方の修復経路が試みられること、脱リン酸化酵素PP1が損傷部位に特異的に集積し修復経路の選択に関与することなど、これまで知られていなかった修復経路の選択における制御機構を示すことができました。

研究の背景と結果

DNA が完全に切れてしまう二本鎖切断は重篤なDNA 損傷のひとつです。細胞は二本鎖切断を修復する非相同末端結合(NHEJ)と相同組換え(HR)の2つの修復経路を備えています。NHEJ はDNA の切断面をそのままつなぎ直すのに対し、HR は切断箇所をわざと「削り込み」することによって一本鎖DNA を露出させ、同じ配列を持つ他のDNAを探索し、それを鋳型にして修復を行います。すなわち、切断箇所の削り込みを行うか否かが、どちらの経路で直すかのスイッチと考えられています。DNA 損傷が起こると損傷部位に53BP1が結合し、53BP1にはさらにRIF1が結合することが知られています。最近、RIF1にシールディンというタンパク質複合体が結合して一本鎖DNA の削り込みの「伸展」を抑制し、HR を抑制してNHEJ を促進することが報告されました。私たちは、RIF1にはシールディンに加えて脱リン酸化酵素PP1が結合して、損傷直後に削り込みを制御するCtIP を脱リン酸化することにより、削り込みの開始を阻害することを見出しました。RIF1には損傷直後にPP1が結合して削り込みの「開始」を防ぎ、削り込みが始まったらシールディンが結合して削り込みの「伸展」を防ぐ、という2つの異なる方法により、HR を促すDNA 末端の削り込みを二重にブロックし、NHEJ を促進していることを発見しました。さらに私たちは、SCAI というタンパク質が損傷後しばらくすると53BP1に結合して、RIF1を53BP1から解離させることを見出しました。これにより、NHEJ を促進していたPP1とシールディンがRIF1とともに損傷部位からいなくなり、HR による修復経路に切り替わることがわかりました。すなわち、DNA 損傷がおこった直後はNHEJ による修復が試みられ、その後、NHEJ により修復するのが困難な場合にはHR で修復されるという、修復経路が損傷を受けてからの時間により選択されていることが明らかになりました。

研究の意義と将来展望

二本鎖切断の相同組換えによる修復に関わるBRCA1が十分機能しないと、乳がん・卵巣がんを発症する生涯リスクが80% 以上になることが報告されています。私たちが見出したSCAI やPP1の機能により、BRCA1の働きを促進あるいは抑制することがわかりました。将来的に私たちが見出した知見が、BRCA1が関与する乳がん・卵巣がんの診断や治療方針に貢献できる可能性があります。

担当研究者

助教 磯部 真也、教授 小布施 力史(理学研究科 生物科学専攻)

キーワード

顆がん/DNA損傷応答/分子生物学/BRCA1

応用分野

医療/ヘルスケア/創薬

参考URL

https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2017/20170712_1
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210714_1
https://www.eurekalert.org/news-releases/478166
https://www.eurekalert.org/news-releases/514955

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。