研究

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子どもの眠りを解析して歯ぎしりの原因を探る

教授 加藤 隆史(歯学研究科 口腔生理学教室)

  • 医歯薬生命系
  • 歯学研究科・歯学部

研究の概要

子どもの歯ぎしりは睡眠時ブラキシズムと呼ばれ、約20%の子どもで発生します。睡眠や発達の障害などが原因であると考えられていますが、歯ぎしりが睡眠中にどのようにして発生するのか不明でした。そこで、明らかな睡眠の病気がない6歳から15歳の子どもに睡眠検査を実施し、一晩の睡眠の深さや自律神経系活動の変化を数値化したところ、歯ぎしりをする子どもでは、レム睡眠に向けてノンレム睡眠が浅くなり交感神経系活動が高まる間に歯ぎしりが集中して発生し、睡眠周期ごとの歯ぎしりの増減があることがわかりました。また、歯ぎしりに伴って寝返りや一時的な脳波の変化が起こることを明らかになりました。以上から、睡眠時ブラキシズムの子どもでは、歯ぎしりが睡眠周期に合わせて繰り返し増減することを初めて明らかにしました。

研究の背景と結果

約20%の子どもが眠っているときに歯ぎしりをします。歯ぎしりがひどいと、乳歯が大きく擦り減ったり、顎に痛みが生じることがあります。しかし、歯ぎしりのメカニズムは不明で、異常な歯ぎしりの診断方法や治療法が確立されていないのが現状です。歯ぎしりのメカニズムを解明するためには、睡眠や発達に問題がない子どもで、睡眠中の脳波や心電図、呼吸運動、顎の筋肉の筋電図を記録する必要があります。しかし、子どもの協力を得て睡眠を記録しないといけないこと、生体信号データの分析に専門性が必要なことから、世界的に研究が進んでいませんでした。そこで、研究専用の睡眠検査室を歯学研究科に整備し、睡眠検査のゴールドスタンダードであるポリソムノグラフィー検査を6歳から15歳の子どもに実施し、44人中15人(27.3%)の子どもに歯ぎしりを認めました。また、歯ぎしりをする子どもと、歯ぎしりをしない子どもについて、脳波のパワースペクトルや心拍の変動、体動を詳細に解析しました。そして睡眠周期ごとの歯ぎしりの発生を調べると、各睡眠周期の後半でレム睡眠へと移行する浅いノンレム睡眠で、最も頻繁に歯ぎしりが発生することがわかりました。このとき、睡眠の深さを示すδ波が減少し、交感神経系活動が増加しましたが、歯ぎしりをする子どもとそうでない子どもで差はありませんでした。しかし、体動の数や脳の覚醒の指標であるβ波の活動は、歯ぎしりをする子どもの方が高い値を示し、約90%の歯ぎしりが短い覚醒や体動とともに発生することが明らかとなりました。以上より、健康な子どもでは、歯ぎしりは、睡眠周期に伴う脳内活動の変化に対して、歯ぎしりをする顎の神経機構が過剰に反応することで生じる可能性が明らかとなりました。

研究の意義と将来展望

子どもの歯ぎしりの発生には、睡眠周期にともなう脳機能の変化が伴っていることが明らかとなり、診断方法や治療法に向けた新たな研究への発展が期待できます。また、健康な子どもに睡眠検査のゴールドスタンダードであるポリソムノグラフィー検査を実施できる体制を整えたことで、今後は子どもの睡眠障害や発達に関する研究へ発展する可能性があります。

担当研究者

教授 加藤 隆史(歯学研究科 口腔生理学教室)

キーワード

睡眠/ブラキシズム/発達/脳波/小児

応用分野

医療・ヘルスケア/歯学

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。