研究 (Research)
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骨組織内腔における骨溶解を検出するためのpH応答性蛍光プローブ (An acid-activatable fluorescent probe for imaging osteocytic bone resorption activity in deep bone cavities)
教授 菊地 和也、准教授 蓑島 維文(工学研究科 応用化学専攻) KIKUCHI Kazuya , MINOSHIMA Masafumi(Graduate School of Engineering)
研究の概要
生命機能の理解に向けて、生体分子の空間的な局在とその時間的な変化、量的・質的な変化を生きた状態で調べることが求められている。われわれは化学プローブをデザイン・合成し、生体分子を時間と空間を制御して可視化する手法の開発に取り組んできた。本研究では、骨組織における細胞機能を生きた状態で探る化学プローブ開発について述べる。骨組織では骨を溶かす細胞が酸を放出することで、局所のpHが低下することが知られている。特に、骨組織内部(骨小腔)における骨の溶解については知見が少なく、これまで十分な理解がされていなかった。そこでpH 感受性の蛍光プローブを骨組織内部に送達できるようにデザインし、骨を溶かす際に生じる低pH 領域の形成を生きたマウスにおいて可視化することに成功した。
研究の背景と結果
骨組織ではさまざまな細胞が働いており、骨の形成と吸収が繰り返されて組織を再構築し、恒常性が維持されている。破骨細胞は骨を溶かす細胞であり、骨組織の再構築に重要な役割を果たす一方で、その骨吸収活性が亢進すると骨粗鬆症、関節リウマチ等の骨疾患の発症につながることが知られている。一方で、骨組織内部の骨小腔とよばれる区画には骨芽細胞から分化した骨細胞が広く分布しており、骨細管とよばれる管で他の骨小腔や骨表面とつながり、細胞間のコミュニケーションを介して骨組織の維持に寄与していると考えられている。骨細胞は周辺の骨を溶解、吸収することがこれまでの研究から示唆されているが、本現象は生きた動物で観察されておらず、未だ議論の余地が残されていた。われわれはこれまでにpH感受性の蛍光プローブを開発し、イメージングによって破骨細胞の活性を生体内でリアルタイムに評価できることを示してきた。しかしながらこのプローブは骨組織に送達されるものの表面に強く吸着しており、骨組織内部に広く分布する骨小腔のpH変化を検出することはできなかった。そこで、骨への親和性が下がることで骨表面より内部への浸透が可能になると考え、骨への送達部位に使うビスフォスフォネート構造をalendronate から親和性のより低いrisedronate に変更し、pH応答性BODIPY 色素に導入したプローブ、pHocas-RIS を設計した。pHocas-RIS を合成し、低pH領域において蛍光強度が上昇することを蛍光スペクトル測定によって確認した。このプローブをマウスに投与し、二光子励起顕微鏡を用いて骨組織を観察したところ、いくつかの骨小腔の輪郭に沿って円盤状の蛍光シグナルが得られた。さらに観察後のマウスから骨組織切片を取り出し、pHの異なる緩衝液中で蛍光イメージングしたところ、骨小腔の輪郭に沿ってpH依存的な蛍光シグナルが得られた。これらの結果より、プローブが骨組織内部まで送達され、骨小腔の低pH環境を可視化したものと考えられる。
研究の意義と将来展望
今回得られた成果は、これまで明らかとされていなかった骨組織内部小腔の低pH領域を生きた状態ではじめて観察したものであり、骨代謝の機構解明に重要な知見を与えるものである。今回得られた蛍光画像は定常状態の骨小腔のpHを可視化したものであり、今後はpHを定量化し、骨溶解が促進するといわれる授乳期のマウスを用いての検証を進める。また、送達部位を変えることで、さまざまな生体組織のpH計測に応用できることが期待できる。
担当研究者
教授 菊地 和也、准教授 蓑島 維文(工学研究科 応用化学専攻)
※本学ResOUのホームページ「究みのStoryZ」に、インタビュー記事が掲載されています。是非ご覧ください。
菊地 和也
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2019/wso6c9/
キーワード
蛍光プローブ/骨細胞/生体イメージング/骨吸収/pH
応用分野
医療・ヘルスケア/創薬