研究

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miRNA を標的とした癌治療薬剤の開発

特任講師 神宮司 健太郎、教授 辻川 和丈(薬学研究科 細胞生理学分野)

  • 医歯薬生命系
  • 薬学研究科・薬学部

研究の概要

micro RNA (miRNA) は21-25塩基からなる小分子RNA であり、標的となる遺伝子の翻訳抑制を介して、様々な生命現象を制御している。我々は、miR-130 family (miR-130b、miR-301a、miR-301b) が非小細胞肺癌や膀胱癌で高発現しており、PI3K/Akt 経路を標的として癌促進作用を有していることを明らかにした。また、miR-130 familyを標的とした架橋型人工核酸(LNA) が強力な腫瘍抑制効果を示すことをマウス膀胱癌同所性モデルにて明らかにした。

研究の背景と結果

膀胱癌は遺伝子変異数がメラノーマ、肺癌に次いで3番目に多い癌種でもあり、多様性のみならず腫瘍内の不均一性も高いと推測されている。分子標的治療薬が隆盛する昨今において、いまだに膀胱癌に対しては細胞傷害性抗腫瘍薬の併用であるGC ( ゲムシタビン・シスプラチン) 療法が使われ続けている。有効な分子標的治療薬の不在も、膀胱癌の病態が単一分子によって規定されていないことを示唆しており、同癌に対する創薬標的分子には多様な制御遺伝子を有している標的が適切だと考えられる。 1つのmiRNA は平均200個もの標的遺伝子を有している。癌で発現上昇しているoncomiR を標的とすることで、多様な癌関連シグナル伝達経路を制御出来る可能性がある。しかしながら、単独のmiRNA の作用は弱く、治療標的として強い薬効を示すためには複数の疾患特異的miRNA を同時に標的とする戦略が有効であると考えられる。複数のmiRNA から構成されるmiRNA-cluster やmiRNAfamilyにおいて機能的重複が報告されており、こうしたmiRNA 群を同時に阻害することで単独阻害時よりも強力に癌の進展を制御できる可能性が示唆されている。しかしながら膀胱癌においてはoncomiRfamilyの存在は確認されておらず、この治療戦略の実現は事実上不可能であった。我々は、膀胱癌で高発現するmiR-130 family (miR-130b、miR-301a、miR-301b) を見出し、これらmiRNA family が癌促進作用を有していることを明らかにした。また、miR-130 family を標的とした架橋型人工核酸が、強力な腫瘍抑制効果を示すことをマウス膀胱癌同所性モデルにて明らかにした。さらに非小細胞肺癌においても、miR-130 family が高発現しており、癌促進性に働いていることを明らかにした。

研究の意義と将来展望

現在臨床試験段階にある膀胱癌治療薬はPI3K/Akt 並びにmTOR シグナルを標的とする低分子化合物が多く、 miR-130 family を標的とした架橋型人工核酸が同シグナルを抑制できる点は好ましい。浸潤性膀胱癌の治療においては、単一分子あるいはシグナル伝達経路を標的とするのではなく、複数のシグナルを同時に標的とする治療戦略の有効性が蓄積されつつある。これは多様な標的遺伝子あるいはシグナル伝達経路を制御できるmiRNA の特徴と合致するものであり、膀胱癌治療標的としてのmiR-130 family の優位性に繋がると考える。

担当研究者

特任講師 神宮司 健太郎、教授 辻川 和丈(薬学研究科 細胞生理学分野)

※本学ResOUのホームページ「究みのStoryZ」に、インタビュー記事が掲載されています。是非ご覧ください。
辻川 和丈
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2014/201409_01/

キーワード

架橋型人工核酸/miRNA/膀胱癌/非小細胞肺癌

応用分野

医療・ヘルスケア/創薬

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。