研究

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免疫チェックポイント阻害薬を受ける肺癌患者におけるサルコペニアの影響

助教 白山 敬之 、 教授 熊ノ郷 淳 (医学系研究科 呼吸器・免疫内科学)

  • 医歯薬生命系
  • 医学系研究科・医学部(医学専攻)

研究の概要

肺癌において、免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体など)は日常臨床で用いられており、投与している患者さんの中には、かなり長期にわたり効果が持続するケースも見受けられます。現在、治療効果の予測因子に関する研究が世界中で進められていますが、現在のところ、高い治療効果を認める患者さんを事前に予測することは困難な状況です。近年、筋肉は運動器官としてだけでなく、内分泌器官としての機能も注目されており、筋肉から分泌されるマイオカインは抗腫瘍効果をもつことが報告されています。しかしながら、 免疫チェックポイント阻害薬の治療効果と患者さんの筋肉量の関係については、これまで明らかになっていませんでした。
今回、我々の研究グループは、肺癌における抗PD-1抗体の治療効果と患者さんの筋肉量の関係を調査し(図)、両者に相関があることを見出しました。治療開始時点で筋肉量の低下を認めるグループでは、筋肉量低下を認めないグループと比較して、病勢進行のリスクが2.83倍となることが示されました。これにより、抗PD-1治療における効果予測において、治療開始時点の筋肉量は重要な因子となる可能性が示唆されました。

研究の背景と結果

肺癌治療において、免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体など)は日常臨床で用いられており、その中にはかなり長期にわたり効果が持続する患者さんがいることがわかっています。これは従来の治療薬ではあまりみられなかった現象です。現在、治療効果を予測するための因子に関する研究が世界中で進められていますが、現在のところ、高い治療効果を認める患者さんを事前に予測することは困難な状況です。近年、筋肉は運動器官としてだけでなく、内分泌器官としての機能も注目されており、筋肉から分泌される生理活性物質であるマイオカインは抗腫瘍効果をもつことが報告されています。しかしながら、免疫チェックポイント阻害薬の治療効果と患者さんの筋肉量の関係については、これまで明らかになっていませんでした。
我々の研究グループは、肺癌における抗PD-1抗体(ニボルマブまたはペムブロリズマブの治療効果と治療開始時点の筋肉量との関係を調査しました。筋肉量の評価には、腹部CT での第3 腰椎レベルにおける大腰筋の断面積を採用しています。この患者さんの腹部の筋肉量を、アジア人の筋肉量データの基準値に照らし合わせ、治療開始時点の筋肉量低下の有無を判定しました(図)。その結果、治療開始時点で筋肉量低下を認めた群では、筋肉量低下を認めなかった患者群と比較して、抗PD-1治療薬中の病勢進行のリスクが2.83倍となることが示されました。また、全身状態に問題がないとされるパフォーマンスステータス(PS)が良好な群の中でも、筋肉量の低下の有無で治療成績に同様の差がみられました。さらに、少数例の検討ですが、1年以上の長期効果を認めた群は、男性・女性ともに筋肉量が高い集団であることが示唆されました。

図.腹部CT を用いた筋肉量評価
図.肺癌患者における免疫チェックポイント阻害薬の効果

研究の意義と将来展望

今後、患者さんの筋肉量を維持あるいは増加させるための取り組みが、治療成績の向上に貢献し得る可能性が期待され、肺癌のみならず癌免疫療法を受ける全て癌種に応用し得る可能性が考えられます。

担当研究者

助教 白山 敬之、教授 熊ノ郷 淳 (医学系研究科 呼吸器・免疫内科学)

※本学ResOUのホームページ「究みのStoryZ」に、インタビュー記事が掲載されています。是非ご覧ください。
熊ノ郷 淳
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2021/nl84_mimiyori_vol7/
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2015/201506_01/

キーワード

サルコペニア/筋肉量/免疫チェックポイント阻害薬/肺癌

応用分野

医療・ヘルスケア

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。