研究

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強光に耐性を持つシアノバクテリア細胞工場の創製

教授 清水 浩、准教授 戸谷 吉博(情報科学研究科)

  • 理工情報系
  • 情報科学研究科

研究の概要

地球規模のCO2問題が叫ばれる中、微生物による化学物質や燃料の環境調和型生産の重要性が注目されている。光合成生物は光エネルギーを利用してCO2を固定する能力を有しているが、強すぎる光を浴びると光合成系が障害を受け細胞が増殖できなくなる光阻害と呼ばれる現象を引き起こすことが知られている。本研究では、進化工学により強光ストレス環境下において成長するシアノバクテリアを取得し、そのゲノム解析を行うことで強光に耐性を持つメカニズムを明らかにした。

図1 植え継ぎ培養による進化工学

研究の背景と結果

生物は環境適応能力を持ち、さまざまな環境ストレスによって生育速度が低下する状況におかれても、環境に適応することで生育速度を増加させる。これは、遺伝子やタンパク質の発現量の変化にとどまらず、遺伝子の塩基配列までが変異し、置かれた環境に適した個体が生き残る現象で進化の一種と考えられる。このような現象を実験室での育種に用いる手法として、植え継ぎ培養系やバイオリアクターでの長期間連続培養があげられる。長期間の植え継ぎ培養による育種では、環境に適応した形質を有する変異体が選択されることが期待される。そのため、植え継ぎ培養により得られた菌株と元の株(親株)を、ゲノム解析やトランスクリプトーム解析、メタボローム解析などの網羅的分析技術により比較することで、遺伝子組換えの戦略立案に有用な情報が取得できると期待される。本研究では、植え継ぎ試験管を複数系列用意し、通気培養を行なった。点光源で通常の増殖を行える4,000 μmol m-2 sec-1 の光環境に比較して野生株では7,000 μmol m-2 sec-1では増殖が低減される。強光環境下でも生育が良好な変異株が出現すると集団の中で優占種になっていくので集団としても高い増殖速度として検知可能となる。植え継ぎの間に培養液中の菌体濃度(光学濁度)から計算された増殖速度は上昇することが確認できた。増殖速度が上昇した場合は光強度をさらに上げて強光条件を徐々に厳しい条件に変更し、最終的には野生株が生育できない9,000 μmol m-2 sec-1 の光強度でも良好に生育できる細胞集団が獲得された。この細胞集団からシングルコロニーを単離し、耐性株を取得することができた。光耐性のメカニズムに迫るため、強光環境下における耐性株のトランスクリプトーム解析や全ゲノムリシークエンス解析を行った。解析の結果、強光に耐性を付与するための必要な遺伝子が同定され耐性株を人工的に育種することも可能となった。シアノバクテリアの強光耐性の分子メカニズムが解明された。

図2 強光耐性株の増殖挙動

研究の意義と将来展望

光合成微生物の一種であるシアノバクテリアを用いた物質生産はCO2から直接目的物質に変換できること、植物に比較して圧倒的に増殖速度が大きいこと、農業用施設などを利用する必要がなく水圏での培養が可能なこと、食糧資源と競合しないこと、など多くの利点を有することから未来の細胞工場として大きな期待が寄せられている。今回見つかった強光耐性を付与する遺伝子を用いることにより、真夏の屋外でも生育可能なシアノバクテリアの育種を可能とし、将来の細胞工場の創製の基礎を築くことができた。

担当研究者

教授 清水 浩、准教授 戸谷 吉博(情報科学研究科)

キーワード

光合成/進化工学/ゲノム解析/強光耐性/細胞工場

応用分野

細胞工場/発酵工学/バイオプロダクション/代謝工学

参考URL

https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210316_1

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。