研究 (Research)
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大脳新皮質神経回路形成機構の解明を基盤とした自閉スペクトラム症の病態理解へ (Revealing the neuropathology of ASD based on circuit formation processes in the cerebral neocortex)
教授 佐藤 真、講師 岡 雄一郎(連合小児発達学研究科・医学系研究科 神経機能形態学) SATO Makoto , OKA Yuichirou(United Graduate School of Child Development/Graduate School of Medicine)
研究の概要
大脳新皮質は機能によって異なるさまざまな機能領野で構成される。各領野の間は直接の神経回路(連合回路)で連絡されている。特に同側の異なる頭葉にある領野の間を結ぶ長距離の回路を長連合回路と言い、異なる感覚の統合や、随意運動の制御といった新皮質の高次機能に重要と考えられている。しかし、長連合回路の細胞レベルでの構造や回路形成の過程は未解明だった。我々は、マウス大脳新皮質の頭頂葉の1次体性感覚野から前頭葉の1次運動野に投射する長連合回路を選択的に可視化する系を確立し、生後の発達段階での軸索の様子を単一ニューロンレベルで解析した。1次体性感覚野の長連合ニューロンは運動野への軸索に加え、左右の大脳半球をつなぐ脳梁を通る軸索も持つdual-projectionニューロンであり(図1)、初めに脳梁への軸索を伸ばした後、生後3日目に大脳皮質内で出芽する軸索側枝のうちで1番長い軸索側枝が1次運動野に伸びることが明らかになった(図2)。
研究の背景と結果
大脳新皮質には扱う情報が異なる多くの機能領野が存在し、ある領野で処理された情報を別の領野に送るため、領野と領野をつなぐ連合回路と呼ばれる神経回路がある。さらに、異なる頭葉にある2つの領野をつなぐ回路を長連合回路といい、長連合回路は異なるモダリティーの感覚情報の統合、感覚情報や記憶などの内部情報に基づく判断、随意運動の制御に重要であると考えられている。しかし、発達の過程で大脳新皮質の領野間、特に頭葉間の長連合回路がどのように作られるのかはほとんどわかっていなかった。我々は、長連合回路形成の基本原理を明らかにするため、マウス大脳新皮質において、1次体性感覚野から1次運動野への長連合回路をモデルに、その発達過程の解析を行った。まず、長連合回路を構成する長連合ニューロンの80%で発現するマーカー遺伝子としてPlxnd1遺伝子を同定した。次に、Plxnd1発現細胞においてGFPが発現するレポータープラスミドを、子宮内電気穿孔法を用いてマウス胎児の大脳新皮質に導入することで、少数の長連合ニューロンでGFPを発現させる手法を確立しました。生後の発達段階で脳組織を取り出し、大脳皮質の平板化と組織透明化を行い、共焦点顕微鏡で長連合ニューロンの軸索の全体構造を個々のニューロンごとに解析したところ、生後7日目で、個々の長連合ニューロンは1次運動野に軸索を伸ばすだけでなく、左右の大脳皮質をつなぐ軸索線維である脳梁線維も伸ばすdual-projectionニューロンであることが明らかになった。1次運動野に伸びる軸索が発達段階でどのように伸びるのか調べたところ、生後すぐに脳梁線維の軸索が伸びた後、生後3日目に大脳皮質内で枝分かれが起き始め、そのうちの1本が1次運動野に伸びる軸索側枝として、同時期に出芽した他の軸索側枝と比べて早く伸びることがわかった。
研究の意義と将来展望
近年のfMRI研究によると、生後半年時点での大脳皮質領野間の機能的結合パターンは自閉スペクトラム症の様々な症状を精度良く予測する。従って、種々の自閉スペクトラム症モデルマウスで、我々が開発した回路可視化法を用いて幼少期の回路構造とその異常を分類することで、症状ごとの病態解明と個別の治療法開発への道が開けると期待される。
担当研究者
教授 佐藤 真、講師 岡 雄一郎(連合小児発達学研究科・医学系研究科 神経機能形態学)
キーワード
神経科学/神経回路形成/大脳新皮質/神経発達症/協調運動障がい
応用分野
医療/創薬