研究 (Research)

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卵巣がん患者大網由来のエクソソームを用いた新規核酸医薬の開発と臨床応用の可能性の検討 (Exploring the potential of engineered exosomes as delivery systems for tumor-suppressor microRNA replacement therapy in ovarian cancer)

准教授 澤田 健二郎(医学系研究科 産科学婦人科学教室) SAWADA Kenjiro(Graduate School of Medicine)

  • 医歯薬生命系 (Medical, Dental, Pharmaceutical and Life Sciences)
  • 医学系研究科・医学部(医学専攻) (Graduate School of Medicine, Faculty of Medicine (Division of Medicine))

English Information

研究の概要

進行卵巣がんのような難治性がんの治療のために核酸医薬を病巣まで届けるには、体液中のヌクレアーゼによる分解、網内系による取り込みから回避しなければならない。そこで患者細胞由来のエクソソームをそのキャリアとして用いる研究を計画した。エクソソームの供給源として、卵巣癌手術の際に摘出する大網に着目した。摘出大網より、線維芽細胞を分離初代培養し、その細胞上清よりエクソソームを抽出し、それに腫瘍抑制miRNA である miR-199a-3p を導入し、治療用エクソソーム(M199-exosome)を作成した。続いて作成したM199-exosome の治療効果を検討した。In vitro で培養している卵巣癌細胞株に添加したところ、miRNA の良好な取り込みがみられ、癌細胞の浸潤能、増殖能が抑制された。卵巣癌モデルマウスにM199-exosomeを腹腔内投与、治療効果を判定した。M199-exosome は腫瘍に選択性高く取り込まれ、卵巣癌細胞の腹膜播種を有意に抑制した。以上、卵巣癌患者大網由来のエクソソームを核酸試薬のキャリアとして用いた場合、高い治療効果が期待できることを証明し、新規核酸治療への応用の可能性を提示した。

研究の背景と結果

【背景】
進行卵巣癌の多くが腹膜播種として再発するが、その治療には極めて難渋する。“悲惨な” 予後を改善させる方策として核酸医薬が期待されているが、核酸医薬を病巣まで届けるには、体液中のRNAaseDNAase による分解、網内系による取り込みから回避しなければならない。そこで患者細胞由来の小胞であるエクソソームDrugDelivery System (DDS)の Carrier として用いる研究を計画した。エクソソームの供給源として、卵巣癌手術の際に摘出する大網に着目し、以下の実験を行った。
【方法および結果】
卵巣癌手術の際に摘出された大網より、線維芽細胞を分離初代培養し、その細胞上清よりエクソソームを超遠心法および密度勾配法で分離抽出した。エクソソームに癌の進展を促進させる効果がないことを確認した後に、抽出したエクソソームに腫瘍抑制microRNA(miRNA) としてmiR-199a-3p を選択し、蛍光標識したmiR-199a-3p をエクソソームに電気穿孔法で導入し、治療用エクソソーム(M199-exosome)を作成した。
続いて作成したM199-exosome の治療効果を検討した。In vitroで培養している卵巣癌細胞株に添加したところ、それぞれの細胞株(CaOV3, OVCAR3, SKOV3ip1)におけるmiR-199a-3p は1000倍以上になり、miRNA の良好な取り込みがみられた。M199-exosomeの投与により標的であるがん遺伝子c-Met の発現抑制が確認され、下流のシグナルの活性化も抑制され、癌細胞の浸潤能、増殖能が抑制された。
SKOV3-Leciferase 細胞を免疫不全マウスに腹腔内移植、卵巣癌モデルマウスを作成し、M199-exosome を投与、治療効果を判定した。M199-exosome を蛍光色素DiR で標識し、腫瘍における選択性の高い取り込みを確認した。M199-exosome は腹腔内投与のみならず、静脈内投与でも高い治療効果を認め、卵巣癌細胞の腹膜播種を抑制した。

研究の意義と将来展望

がん患者大網より採取したエクソソームを核酸試薬のDDS のキャリアとして用いた場合、卵巣がん細胞への選択性と効率の高い核酸の取り込みが期待でき、腹膜播種に対する高い治療効果が期待できることを証明した。腹膜播種は腹膜癌や婦人科癌に留まらず、胃癌や大腸癌などの消化器癌においても、極めて難治で、治癒はほぼ不可能である。今回の研究成果は、消化器癌などにおける腹膜播種形成にも応用できると考えている。

図1 miRNA RT-PCR エクソソームに封入された miR-199a-3p は効率的に卵巣癌細胞に取り込まれる
図2 治療用エクソソームは腹腔内腫瘍に選択的に取り込まれる
図3 miR-199a-3p を封入したエクソソーム(miR-199a-3p-exo)は卵巣癌腹膜播種を抑制する。Balb-c nu/nu マウスに 2×106 個の SKOV3-Luci 細胞を腹腔内移植し、腫瘍の形成を IVIS でモニターした。移植後14日目より、miR-199a-3p-exo を一日おきに投与し、治療効果を検討した。コントロールとして、PBS および control-miRNA をエクソソームに封入したもの(controlmiRNA-exo) を用いた。**;P<0.01.

担当研究者

准教授 澤田 健二郎(医学系研究科 産科学婦人科学教室)

キーワード

エクソソーム/卵巣がん/腹膜播種/マイクロRNA

応用分野

医療/創薬

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。