研究 (Research)

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従来の腫瘍溶解性アデノウイルスの問題点を克服可能な新規腫瘍溶解性アデノウイルスの開発 (Development of a novel oncolytic adenovirus that can overcome the problems of a conventional oncolytic adenovirus)

准教授 櫻井 文教、教授 水口 裕之(薬学研究科 分子生物学分野) SAKURAI Fuminori , MIZUGUCHI Hiroyuki(Graduate School of Pharmaceutical Sciences)

  • 医歯薬生命系 (Medical, Dental, Pharmaceutical and Life Sciences)
  • 薬学研究科・薬学部 (Graduate School of Pharmaceutical Sciences, School of Pharmaceutical Sciences)

English Information

研究の概要

がん細胞特異的に感染し、がん細胞を死滅させる腫瘍溶解性ウイルスが、新たな抗がん剤として大きな注目を集めています。特にアデノウイルス(Ad)を基盤とした腫瘍溶解性ウイルスは、その優れた抗腫瘍効果から活発に臨床開発が進められています。従来の腫瘍溶解性Adは、70を超えるヒトAdのなかで、C群に属する5型Adを基本骨格としております。しかし成人の多くは、5型Adに対する抗体を既に保有しているため、既存抗体により治療効果が減弱する可能性があります。また、5型Adの感染受容体は、悪性度の高いがん細胞では発現が低く、5型Adはそれらの細胞に効率よく感染できません。そこで我々は、抗体を保有している人の割合が低く、多くのがん細胞で高発現しているCD46を感染受容体として感染する35型Ad(B群に属する)を基本骨格とした新しい腫瘍溶解性Adを開発しました。腫瘍溶解性35型Adは、従来の腫瘍溶解性5型Adと比較し、各種がん細胞に対し同等以上の殺細胞効果を示しました。さらに、抗5型Ad抗体による阻害を受けませんでした。

研究の背景と結果

正常細胞には感染することなく、がん細胞特異的に感染し、がん細胞を効率よく死滅させる腫瘍溶解性アデノウイルスは、新たながん治療薬として期待を集めており、多くの臨床試験が行われています。これまでの腫瘍溶解性アデノウイルスは、C群に属する5型アデノウイルスを基本骨格としています。日本人を含め、成人の多く(90%以上)は自然感染により5型アデノウイルスに対する抗体を保有しているため、抗体により治療効果が減弱する可能性が指摘されています。また、5型アデノウイルスの感染受容体(coxsackievirus-adenovirus receptor; CAR)は、悪性度の高いがん細胞をはじめとする一部のがん細胞では発現が低く、効率よく感染できないという課題がありました。
そこで我々は、B群に属する35型アデノウイルスを基本骨格とした新しい腫瘍溶解性アデノウイルスを開発しました。35型アデノウイルスに対する抗体を保有している人の割合は約20%以下と低いことから、抗体によって治療効果が減弱する可能性は低く、さらには腫瘍溶解性5型アデノウイルスでは困難であった静脈内投与による治療が可能になると期待されます。さらに35型アデノウイルスの感染受容体であるCD46は、ほぼ全ての細胞で発現しており、特に悪性度の高いがん細胞で高発現していることが知られています。したがって、腫瘍溶解性35型アデノウイルスは、悪性度の高いがん細胞を含む広範ながん種に対し効率よく感染し、高い治療効果が期待できます。

研究の意義と将来展望

腫瘍溶解性35型Adは、従来の腫瘍溶解性Adでは高い治療効果が期待できなかったがんに対しても高い治療効果を示すことから、新たな抗がん剤として期待されます。

担当研究者

准教授 櫻井 文教、教授 水口 裕之(薬学研究科 分子生物学分野)

※本学ResOUのホームページ「究みのStoryZ」に、インタビュー記事が掲載されています。是非ご覧ください。
水口 裕之
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2012/121201_1/

キーワード

腫瘍溶解性ウイルス/アデノウイルス/がん/中和抗体

応用分野

医療・ヘルスケア/創薬/がん治療

参考URL

https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210217_2

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。