研究 (Research)

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ヒトロタウイルスのリバースジェネティクス系 (Reverse Genetics System for a Human Group A Rotavirus)

教授 小林 剛(微生物病研究所 ウイルス免疫分野) KOBAYASHI Takeshi(Research Institute for Microbial Diseases)

  • 医歯薬生命系 (Medical, Dental, Pharmaceutical and Life Sciences)
  • 微生物病研究所 (Research Institute for Microbial Diseases)

English Information

研究の概要

ロタウイルスは乳幼児に重篤な下痢症を引き起こすウイルスで、医療の発展が遅れている開発途上国を中心にロタウイルス感染によって年間約20万人が死亡しているとされている。ロタウイルスについては、ウイルス遺伝子を人工的に改変できるリバースジェネティクス系の開発が遅れていたことから、ロタウイルスの研究を進める上で大きな障壁となっていた。本研究では、ヒトロタウイルスの増殖機構を理解するため、ヒトロタウイルスのリバースジェネティクス系の開発を行った。

研究の背景と結果

リバースジェネティクス系は、RNA ウイルスゲノム由来の核酸を培養細胞に導入し、人工的に任意の組換えウイルスを作製する技術である。11分節の複雑なRNA ゲノムを有するロタウイルスにおいては、実用的なリバースジェネティクス系の開発は遅れていた。しかし、2017年、我々のグループは、サルロタウイルスSA11株の11分節のRNA ゲノムを発現するプラスミドと人工合成を促進する因子として、細胞融合性タンパク質FAST とワクシニアウイルス由来のRNA キャッピング酵素を培養細胞に同時に導入することで、組換えサルロタウイルスの人工合成に成功した。一方で、ロタウイルスは種特異性が高いことから、サルロタウイルスのリバースジェネティクス系に加えて、ヒトロタウイルス研究の解析に有用なヒトロタウイルスのリバースジェネティクス系の確立が望まれていた。そのため、本研究では世界規模で流行している遺伝子型の一つであるG4P[8] 型のヒトロタウイルス(Odelia 株)のリバースジェネティクス系の開発を行った。方法として、Odelia 株由来ウイルスゲノムを抽出し、得られたウイルスゲノム由来cDNAをT7プロモーターおよびD 型肝炎ウイルスリボザイム配列の間に配置したプラスミド(レスキュープラスミド)を作製した。全11分節のOdelia 株のレスキュープラスミド、細胞融合性タンパク質FAST、ワクシニアウイルスRNA キャッピング酵素、ロタウイルスNSP2、NSP5発現プラスミドをT7 RNA ポリメラーゼ発現細胞に導入し、培養後、ウイルスのレスキューに成功した(Figure 1)。Odelia 株のリバースジェネティクス系を用いて、サルロタウイルスSA11株とOdelia 株とのモノリアソータントウイルスの作製を行った。さらに、宿主免疫の制御活性を有するNSP1タンパク質における様々な変異ウイルスを作製し、ヒトロタウイルスNSP1のC 末端側166アミノ酸残基の領域がウイルス複製において重要な役割を担っていることを明らかにした(Figure 2)。本技術の開発により、ヒトロタウイルスの研究の進展が期待される。

研究の意義と将来展望

ロタウイルス研究では培養細胞で増殖性の高いサルロタウイルスが一般的に解析モデルとして使用されている。しかし、サルロタウイルスとヒトロタウイルスの間ではウイルス学的性状が異なる点も知られており、ヒトロタウイルスの研究を進める上でヒトロタウイルスのリバースジェネティクス系の開発は重要な研究課題である。本研究で開発に成功したヒトロタウイルスのリバースジェネティクス系により、ヒトロタウイルス遺伝子内に任意の変異を導入することが可能となり、ヒトロタウイルスの増殖機構の解明や、ヒトロタウイルスをベースにした新規ロタウイルスワクチンの開発研究などが飛躍的に進展すると期待される。

担当研究者

教授 小林 剛(微生物病研究所 ウイルス免疫分野)

キーワード

ロタウイルス/ワクチン/人工合成

応用分野

医療・ヘルスケア/ワクチン

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。