研究

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肝細胞癌に対する薬物療法治療効果予測バイオマーカー探索

助教 小玉 尚宏、教授 竹原 徹郎(医学系研究科 消化器内科学)

  • 医歯薬生命系
  • 医学系研究科・医学部(医学専攻)

研究の概要

慢性肝疾患の患者さんは病気の進行に伴い肝がんを併発することが知られており、その発症は生命予後に大きな影響を与えます。特に悪性度の高い肝がんは早期発見が極めて重要ですが、現在用いられている腫瘍マーカーの感度は十分ではありません。また、現在進行肝がんに対して用いられる様々な分子標的治療薬はいずれもその治療効果は30%以下ですが、薬剤の治療効果を予測し薬剤選択の指標となる有用なバイオマーカーはありません。肝がんは、その原因となる遺伝子異常などが患者さんごとに様々異なっていることが知られています。一方で、この腫瘍間不均一性が薬物療法の治療効果に与える影響はよくわかっていません。我々は、このがん遺伝子の腫瘍間不均一性が生体内で再現されたマウススクリーニングモデルを開発し、FGF19遺伝子を高発現する肝がんが悪性度が高い一方、肝がんで用いられる分子標的治療薬レンバチニブに高感受性となることを発見しました。また、FGF19遺伝子により制御されるST6GAL1の血清濃度が予後不良なFGF19高発現肝がんの検出並びにレンバチニブ高感受性肝がんの同定に有用であることを同定しました。

図1. がん遺伝⼦の腫瘍間不均⼀性が再現されたマウスモデルを⽤いてFGF19遺伝⼦が肝癌のレンバチニブ感受性に関わることを発⾒

研究の背景と結果

慢性肝疾患の患者さんは病気の進行に伴い肝がんを併発することが知られており、その発症は生命予後に大きな影響を与えます。特に悪性度の高い肝がんは早期発見が極めて重要ですが、現在用いられている腫瘍マーカーの感度は十分ではありません。また、現在進行肝がんに対して様々な分子標的治療薬が用いられていますが、いずれの薬剤も治療効果は30%程度で、薬剤の治療効果を予測し薬剤選択の指標となる有用なバイオマーカーはありません。肝がんは発症に関わるがん遺伝子の異常が非常に多様で、患者さんごとに様々異なっていることが知られています。一方で、この腫瘍間不均一性が薬物療法の治療効果に与える影響はよくわかっていません。我々は、がん遺伝子の違いによる腫瘍間不均一性が、がんの悪性度や薬物療法の治療効果に影響を与えていると仮説を立て研究を開始しました。まず複数のがん遺伝子を一度に肝細胞に導入する手法を確立し、これによりがん遺伝子がランダムに活性化した腫瘍間不均一性の高い肝がんを発症する新規のマウスモデルを作成することに成功しました。そこで、肝がんで用いられる分子標的薬レンバチニブによりこのモデルの治療を行うとFGF19遺伝子を発現した腫瘍の割合が無治療群と比べて有意に減少し、FGF19高発現肝がんがレンバチニブに対して高感受性であることを見出しました。次に肝がん細胞株を用いた分泌タンパクの網羅的な解析により、FGF19の発現制御を受ける分泌タンパクST6GAL1を同定しました。また肝がん外科切除例の検討から、血清ST6GAL1により予後不良なFGF19高発現肝がんを選別できることを見出しました。さらに、血清ST6GAL1濃度に基づいて患者を層別化すると、ST6GAL1高値群ではレンバチニブ治療群の予後が他の薬剤で治療を行った群より有意に延長していることを見出しました。以上より、血清ST6GAL1濃度が高悪性度肝がんの同定や肝がん薬物療法における最適な薬剤選択のバイオマーカーとして有用である可能性を明らかにしました。

図2. ⾎清ST6GAL1は肝癌の予後予測・薬物療法効果予測バイオマーカーとして有⽤

研究の意義と将来展望

本研究により同定されたバイオマーカーST6GAL1の臨床応用が進むことで、慢性肝疾患患者における高悪性度肝がんの発見や、進行肝がん患者における薬物療法のより最適・最良な薬剤選択が可能となり、生命予後の改善に寄与することが期待されます。

担当研究者

助教  小玉 尚宏、教授 竹原 徹郎(医学系研究科 消化器内科学)

※本学ResOUのホームページ「究みのStoryZ」に、インタビュー記事が掲載されています。是非ご覧ください。
竹原 徹郎
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2022/nl87_mimiyori_vol10/

キーワード

肝がん/マウスモデル/FGF19/ST6GAL1/分子標的治療薬

応用分野

医療・ヘルスケア/試薬開発

参考URL

https://www.med.osaka-u.ac.jp/activities/results/2020year/2020myojin-kodama
https://www.amed.go.jp/news/release_20201208-01.html

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2022(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。