研究

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量子計算機の自由度を活用した計算物理 ~大規模量子ビットシミュレータ開発と物性応用~

准教授 上田 宏(量子情報・量子生命研究センター)

  • 全学・学際など
  • 量子情報・量子生命研究センター

研究の概要

量子計算機(実機)による量子超越検証の実験が顕在化して以後、量子・古典計算機が共存するポストムーア時代における計算物理の発展に資するテーマとして、多体系のシミュレーションを実機の自由度を活用して加速するスキームに注目が集まっています。
そこで我々は、物性・統計分野において発展している数値計算手法(特にテンソルネットワーク:TN法)の知見を活用して、1000量子ビット級の量子シミュレータを開発しています。本開発を通して、近い将来実現しうる実機および量子アルゴリズムの開発・検証を展開するためのプラットフォームを構築するとともに、その物性研究への応用を実施しています。現在は、既知の量子・古典的情報の量子回路表現を精度指定で探索するアルゴリズムをTN法の知見に基づいて開発し、従来シミュレーションでの最良解(例えば多体系の量子状態)を実機に入力するための環境を整えています。

図1 量子・古典ハイブリッド計算環境におけるTNを活用した量子シミュレーションの概念図
図2 TN状態の概念図:局所テンソルや補助自由度を制御して量子状態を簡便に可視化する

研究の先に見据えるビジョン

ハイブリッド計算機による超省エネ計算物理

互いに強く相関し合う電子系が織りなす多様な物理を定量的に理解し、革新的物性現象に遭遇する機会を増やすためには、従来のアプローチに加えて量子計算機のような非従来型の自由度を活用したシミュレーションが重要になってきます。最先端のスーパーコンピュータをフル稼働した際の消費電力量は数10メガワット時のオーダーに対して、現在のエラー訂正機能のない量子計算機は0.1~数10キロワット時オーダーの電力で稼働し、さらに量子計算機に有利な問題設定においてはスパコンでもなかなか得られない結果に今日アクセスしつつあります。古典計算機と量子計算機、それぞれが得意な計算を適材適所で割り当ててシミュレーションに必要なエネルギー消費を著しく低減することで、地球環境と調和した計算物理における基礎研究基盤を実現します。

担当研究者

准教授 上田 宏(量子情報・量子生命研究センター)

キーワード

アルゴリズム開発/テンソルネットワーク/HPC(高性能計算)/量子計算機

応用分野

計算物理/統計物理/物性物理(磁性、強相関電子系、超伝導、量子情報など)

※本内容は大阪大学 経営企画オフィス制作「大阪大学若手研究者の取組・ビジョン2022」より抜粋したものです。