研究

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多価カチオン種の創発と合成化学への展開 ~カチオン化学のルネサンス~

教授 平野 康次(工学研究科)

  • 理工情報系
  • 工学研究科・工学部

研究の概要

新たな反応性化学種の創出は、たびたび社会を物質創成面から変革してきました。正電荷を帯びた化学種(カチオン)は、多重結合や芳香環などの「電子豊富な分子」への付加を足掛かりとして、様々な化学反応を駆動することが知られています。私たちは、高反応性カチオンの新しい発生法について研究しており、それを利用した効率的な分子変換反応の開発に取り組んでいます。
例えば、リン多価カチオン種の一つであるリンジカチオンの発生とその合成的利用に関して、これまで一定の成功を収めました(図1)。創発的研究では、これを炭素(C)や類似する重元素であるヒ素(As)、硫黄(S)、セレン(Se)等へ拡張させることを端緒として、新規有機材料の創成へと展開します。従来の合成化学における常識を打ち破るような斬新な分子変換を実現し、カチオン化学のルネサンスにつなげることを目指します。

図1 リンジカチオンにより創成された新規マテリアル(直線型8環式分子)
特異な発光特性、Redox 特性を活かした有機薄膜太陽電池への応用が期待される

研究の先に見据えるビジョン

多価カチオン種の創出による物質創成の革新

私は、未知の反応性化学種である多価カチオン種を創成できれば、従来の有機合成化学を刷新すると同時に、物質供給面から社会を変革する力をもたらすと信じています。
例えば、現代の合成技術の多くは遷移金属を用いた触媒反応によって実施されていますが、そのほとんどはレアメタルであり、希少金属の産出地域の局在性に大きく影響を受ける極めて不安定な地盤の上に成り立っています。本研究が実を結び、あたかも貴金属系遷移金属触媒を利用したかのような斬新な分子変換を多価カチオンが駆動できれば、このような状況から脱却し、埋蔵資源の乏しい我が国の持続可能な発展にも大きく貢献できると考えられます。また、多価カチオン種に光を当てることは、構造有機化学、典型元素化学などの関連分野にも多大な影響を及ぼし、それらと連動して新たな学理を確立することで基礎科学の発展にも大きく貢献できる可能性を秘めています。

担当研究者

教授 平野 康次(工学研究科)

キーワード

カチオン/ヘテロ元素/合成化学/パイ共役分子/典型元素触媒

応用分野

有機化学/材料化学/創薬化学

※本内容は大阪大学 経営企画オフィス制作「大阪大学若手研究者の取組・ビジョン2022」より抜粋したものです。